by jun | 2021/12/16

今年リリースされたSylvain Juzanの本。
ジョンバノンが推薦文を書いているので買いました。
まず気になるこの書名とアートワーク、The PolisのEvery Breath You Takeが元になっていて、前書きでその話もしています。
Every Breath You Takeという曲は曲調と”I’ll be watching you”というフレーズから永遠の愛感ある爽やかなラブソング風ですが、よく歌詞聞いてると途中でyouはどっか行っちゃってるしその後もI’ll be watching you言ってるしストーカーっぽくて怖い歌なんですね。
実際にスティングが作詞した時は一九八四年のビッグブラザーについて考えていたらしく、スティング本人もこの歌をポジティブに捉えてる人が多いことにびっくりしたという話があります。
んで、Sylvain Juzanはこの曲の二面性に魅力を感じているらしく手品における二面性と絡めた話をしていて、例えば完全に演者がコントロールしてるけど観客には自由を感じさせないといけないとかそういう話で、実際この本の手順は観客の選択によって不思議さを演出するものが多いです。
また、この本の手順を演じる際に重要な点についても前書きで触れられていて、そういうものだと意識して読むとなるほど確かにと思えるものもあります。
まあ二面性とか演じ方が大事とか手品ってそういうもんやからってのはそうですが、下手に演じると作業ゲーに見える手品って個性を出しやすいし誰がやってもそこそこになる手品にはない魅力があるのはなんとなくわかる。
この本に載ってる手順は長めの手続きが多く、観客に選択させたり無作為を演出して地道に説得力を積み重ねていくスタイルで、そんなのしゃらくせえわと思う人にはそんなにおすすめできません。
また、ジョンバノンのコメントの中にもeffect is everythingと書いてますが、正直現象からしてなんでそんなことしたいのか理解できんというトリックもありました。effect is everythingで現象に乗れないと全損なんですけど、全体通して見るに結構手法偏ってて手癖も強い人で、どっちかというと好きな原理を上手く使う人って印象の方が強いです。特に数理トリック系の応用としては面白く読めると思いますし、原理系のトリックとして無意味な作業を減らそうとする演出上の工夫も見られます。
作品によって感想にムラがあるので以下個別に。

Every Card You Take, I’ll Be Watching You

複数枚選択のトライアンフ。
2つのトライアンフで使える原理を組み合わせたもので、確実に裏表に混ぜたように見せることができ、ギャフであることも疑われにくい構成になってます。
売りとしては観客のカードをパケットに戻してから完全にシャッフルしてもらえるところ。前半はCATOをちょっと捻ったような使い方をしてて、観客の選択も良い感じに効いててそれに繋がる演出も良い。
複数枚選択だったりセッティング等諸々の重さから演じ辛いトリックではあるけど、この状態がこうなったから不思議ということがしっかり伝わる手順なので観客の印象に残りやすいトリックとも言えるのではないでしょうか。

Color Correction

観客の選んだカードの裏の色が変わります。
これは裏の色の違うカードをどう都合良い状態に持っていくかというところが改案ポイントですが、正直これがベストかというと微妙なところ。
観客が自由にできるところはあるけど、カードがどこに行ったかわからなくするという強化の方向性が正しいのかどうかは疑問です。

Reverse Biddle

ビドルトリックで、デックの中で表向きになったカードがパケットの方に帰ります。
正直そんなことしてほしいかって疑問はありますが、使われてるバーナードビリスの技法はあまり知られてない割に有用な技法で、どうしてもこの現象をやりたいという場合で考えると手順としてそこまで悪いわけではありません。ダブルの扱いについての文章も面白かったです。
でもやっぱりビドルトリックの完璧な移動とプロットの面白さを考えると、せっかく綺麗に終わっていたものを!!と思います。ビドルトリックの手順部分もそんなにこだわりを感じません。

Tantalean Punishments

マルチプルセレクションで、タンタライザーとスペリングで当てます。
肝は帰宅の話なのでスペリングのとこは好みに変えられるけど、これは結構スペリングがマッチしてる手順だと思いますし、他のランダム要素と組み合わせるとスペリングの魅力増しになることが確認できます。

Mimic Me If You Can

Do is I Doで、色々やってシャッフルした後の演者と観客のトップ4枚が一致します。
もちろん完全に自由にシャッフルさせられるわけじゃないけど、ほぼそう感じさせることのできる手順。
ここにLuis Oteroのアイデアが使われていて、上手いことデックを交換してどっちも観客が自由に混ぜたように見せれます。ちょっとした工夫ですが、カード当てのDo us I Doとかデック交換が必要な手順とかでも使える方法で、なんとなく交換するより自然かと。

手順としては演者と観客の4枚が当たった後に予言の4枚とも一致してると見せるのはいかがなものかと思います。4枚である必要があるので予言することで4枚である必然性は出せるけど、予言を足すとデックに疑いが向きやすくはなる気はしますね。

The Winning Triplets

トリプル配り原理のトリプル部分に理由を持たせたような使い方で、更にトリプルが全く別の選択であるかのように見せることが出来る賢い手順。
マルチプルセレクションかつ、そこから更に別のカードを覚えるセクションがあるという冗長さは多少気になるけど、観客が多くいる場合なら大人数参加させられるのはメリットかもしれません。

Tricky Question

Top or Bottomの変なバリエーションです。
よくあるのはアンビシャスカード的に上か下かを選んでもらって言われた方に移動させるというやつ。
本作はテーブルに置いたカードが消えて観客が言った方に出現させるという見せ方になっていて、現象としても面白いし、そんなに難しいことをせず淡々と説得力を高めていく手順も良いです。
まあこのカード構成なら前フリで別の現象をやりたい気はします。オチが面白い現象だから、前段に普通の移動ToBをやるのも悪くないんじゃないでしょうか。

Touchdown Prophecy

アメフトをテーマにした予言トリック。
デックを2つ使って、それぞれのトップ6枚の合計数が予言されています。
この合計数のはスコアのことで、他にも手品都合のところを上手いことアメフトに絡めて納得度高い手順。
古典的原理の応用のさせ方としても面白く、まだまだ使い道を考えたくなるようなものです。

Double Stop

2枚のカードを当てます。
表向きに配っていって、観客が心の中でストップを言うけど当たるみたいなあれ。
ここで使われてる原理はちょっと弱点があり微妙な方法で解決されることも多いんですが、この手順は演出が綺麗に穴を埋めています。
まあこれはもうちょっとセリフの解説が欲しいところではありましたが。

Dynamite

TNTのセレクトカード4枚版、オチがトライアンフになってます。
トライアンフパートはマルチプルセレクションならではのサトルティが面白くはあるものの、TNTの部分はTNTなのでTNTはTNTでいいんじゃないかという気持ちも。
まあでもなかなか説得力ある表裏ディスプレイは見所。

Fogbow

レインボーデックの手順。
レインボーを隠してレギュラーデックに見せる手続きはあざとくなく、手順の文脈の中で行われます。
また、この手順はメンタルセレクションの要素があり、なんにも難しいことしなくてもメンタルセレクションに不思議なことが起こったように見えるのも気に入ったポイント。
まさにその部分で裏の色のサトルティが効いてるので説得力は高いんじゃないかと思います。
この本で一番やってみたいと思えたのはこれかも。
他はMimic Me If You Canと変化球枠でTricky Questionあたりはかなり好み。

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