1997年に出たピーターダッフィーのカードマジック作品集。Lybrary.comに電子版あります。
Effortlessっつーことで難易度はセミオートぐらいに抑えられていて面白い原理も使われてますが、その作業感を失くすための演出やセリフの解説は薄く、そこらへんは読んだ人がなんとかするしかない感じで、Effortlessという響きに飛びつく怠けた効率厨の気持ちを考えて欲しいなと思いました。
まあ至れり尽くせりの本ばっか読んでてもそれはそれであほになりそうですけども、この本に載ってる手順はどれだけの名人ならこの操作の意味を上手く説明することができるんだという作品も多いです。
鬼のように多作なピーターダッフィーさん、この本でも80作品ぐらい解説されていまして、ぶっちゃけ現象も手法も似てたりするやつ多いんで半分ぐらいには削れるでしょうし、一作一作のブラッシュアップも足りてないように思います。
とりあえず思い付いたから載せたれっていう勢いが凄くて、そのライド感を楽しめるかどうかが勝負になってくる一冊。
Chapter One : Effortless Move
コントロールやスタックを保つカット等が解説されています。
低負担かつインパクト強い手品の多くはセットを必要としますので、フォールスは何か出来た方が良いでしょう。
独特の動きの物もあるのですが、完全なフォールスではなくワンカットした状態で終わるものとかは、カットした感が結構出て良いです。
ただし独特だからその時点で何かを気取られてしまいそうで、それなら何もせずに始めた方がいいのではって感じも無きにしも。
コントロールはジョグの作り方メインですが、極めるとかなり自然に出来る方法。
コントロールで使うより、カットで真ん中に移動させたトップ部にジョグ作っておく時なんか自然にできて良いです。
Chapter Two : Effortless Productions
エースプロダクションやロイヤルフラッシュの手順が数種類。
“From Nowhere”は最初にカードを選ばせて、そのカードで強い役作るよー的なやつで、カット部分は演者がほとんどやりますが動きは結構良いです。
4Aバージョンだとかなりスッキリするし、カードのめくり方工夫すれば普通にかっこよく見せれそう。
現象も手法もまあまあ微妙なのが”Aces Take The Plunge”という2枚のカードの両サイドがそれぞれAになってるというやつ。
明らかに手法から無理くり作った手順で、2枚のランダムなカードを使う(表は見せない)導入からとにかく謎で、終わった時のディスプレイの微妙さが凄いです。
“Return to St. Nicholas”とIain Girdwoodの”Girdwood Meets St. Nicholas”はどちらもジョーカーがAをサンドイッチしていって、ラスト二枚はジョーカーが変化するあれ。
ダッフィーがビジュアルに、Girdwoodは非ビジュアルに変化させていますが現象として見れば後者の方が好みです。
ただし操作のバランスは悪く、出現にはやや課題ありと言った感じ。
Effortlessだけど最初からまあまあ怪しい。
これ好きな現象で色々調べてるとこなんですが、レギュラーのオープナーでやるならこの2つはとりあえず押さえて置くと大丈夫って感じではあります。
Girdwoodの方はセットとカードの動かし方が少し捻ってるので、ここから色々考えられそう。
Chapter Three : Magic in Color
赤黒とか裏の色がテーマになってるチャプター。
“Different Class”は2つのパケットからそれぞれ1枚ずつカードを選ぶと黒いカードと赤いカードで、残りのパケットのカードを見ると全部赤の中から1枚の黒、全部黒の中から1枚の赤が選ばれたことがわかります。
選ばせ方がポイントですが、プレゼンテーション次第では結構良い感じになりそうな予感はあり、セッティングもそれに合わせて工夫すれば不思議度も高まるかと思います。
2人に5枚の赤のカード、5枚の黒のカードをそれぞれ渡してカードを当てる”The Master Cards”は一応ちょっとした演出はついてるけど原理っぽさが強く、不思議に見せるのは結構難しそう。
あとまあ原理というほどの原理というかとそれも微妙。
Think a Card要素のあるシカゴオープナー”Double Ender”は、元のシカゴオープナーと違って同時に2人の観客にカードを選ばせて現象もテンポよくキックするからその点は十分良くなってるポイントかと思います。
この原理の使い方もなかなか秀逸。
“We Can Work It Out”はブランクオチ。
Effortlessらしい大胆手法には賛否分かれるところがありそうな感じで、現象的にもちょっと混乱しそうな一品。
このチャプターは全体的にカード2枚選ばせてオチでひっくり返しというのが多く、オチのインパクト重視でもう少しスマートにならんかなーという印象のものが多いです。
Chapter Four : Coincidence or What
メイト一致とかそういう系のあれ。
作業の割に地味なものもあり、例えば”The Unknown Entity”はパケットを2つ作って片方を選んでもらい、もう片方を特殊な混ぜ方してもらってから表裏の5つのペアーを作ってそのうちの一つを選んでもらって、表向いてる方の枚数分最初のパケットから配って出てきたカードとペアの裏向きのメイトと一致してるという現象。
確かに原理としては面白いけど、何かカードマジックを見せてくれと言われた時のためにこのセットをしておいてこれ演じるって人たぶんいないと思うのですよね。
この手の現象は演出で化けることもなくはないですが、申し訳程度にコインを乗せて云々というくだりがあるだけでこの解説だけではどうにもならず。
続く”Matchical Mix”はもう少しわかりやすいメイト一致で、混ぜるとこにも一応セリフついてますけどランダム性は疑問残ります。
これで「私が自由に混ぜたのに不思議!」とはまあならんでしょう。
石焼ビビンパ頼んだらまずナムルと卵とコチュジャンを絡ませてご飯のお焦げで包むようにして2分混ぜて今度は切るように混ぜつつ新たなお焦げを作ってみたいなことが書いてる説明書を読みながらめんどくせーなと思いつつその通りにやったら美味しい石焼ビビンパが食べれてあー説明通りにやってよかったというのはありますが、これらの手品に石焼ビビンパ級のカタルシスがあるかというとそれもちょっとあれなのでそもそもという問題もあるわけで混ぜ方に理屈があれば良いという話でもない気もします。
一方でスタックの強さだけで見せる”Mirror Power”なんかは元ネタの”Power of Thought”より手軽にできて、怪しさもそんなにないです。
まあどうやってもそうなると思われるかもしれませんがフリーチョイスだしセットも良くできてるので最後までは追われにくいはず。
某トリックデックを上手く使った”An Interesting Use of That Principle”はフォースなしの予言現象。
途中配る部分もうちょいどうにかならんかなーと思わんでもないですが、コインシデンスと予言を上手く合わせた現象でかなり好みです。
Chapter Five : Lie Ditector
Lie Ditectorの章。
元々そんなに好きじゃないプロットというのもあるのですけど、変えてるとこが別にそれはどうでもいいからという感じで特に惹かれるものもなく。
あえていうとサイステビンスからセットできる”Lie Stebbins”ってのは興味深くはあります。
いやでもまあなんかお前の匙加減やろ感が強くなってるとも言えますが、それを上手く見せてこそマジシャンそれを上手く見せてこそマジシャンと言い聞かせながら演じましょう。
Chapter Six : Quartets
フォーオブアカインドネタです。
ただのプロダクションというより少し入り組んだものが多いです。
“Effortless Count-Down”は4つに分けたパケットのトップカードの数字分配るとフォーオブアカインドが揃うというもの。
4枚をバラバラに戻すところからスタートできて、セミオートな感じでサッカートリックすぎない用に見せれるのが良いです。
デモンストレーション的に見せるのも面白そう。
捻り過ぎて見た目も意外性も微妙になってるのが”Men-Aces”というサンドイッチ。
オチのひっくり返し方はホフジンサーエースっぽくもあるのですが、なんでこんなことになってしまったのかは良くわからんですね。
何かもう一つ演出か前振りのトリックがあれば良くもなりそうですが。
サンドイッチでは”Aces Are Ace”というのが良かったです。
赤と黒のAが別々の仕事をするって面白さもあるし、Effortlessにこだわらなければもっと可能性ありそうな感じ。
見せ方も段階的にするとか色々考えられそうです。
ジャズエーセスをちょっと違った見せ方にした”A Four Ace Ensemble”はトランスポジション感が強めで割と良い雰囲気。
ただカウント繰り返すよりは良いというのもあるし、現象起こるところのフェアさは増してると思います。
Chapter Seven : Looking Ahead
予言トリックの章。
“All The Fives!”は色々やって観客の指示によって(ノーエキボック!)残った2枚のカードの合計数が予言されてるという手順。
正直この予言の手順自体は直接的すぎて微妙ですが、観客の自由度は高いのでナンバープロットと組み合わせたり、何か他に数字を使うトリックで使うと面白そうです。
まさにそういうナンバートリックになってるのが次の”Back To The Future Packet”。
予言4枚ってのがなーってのと取り出し方がちょっとってのはありますが、こういうセットと原理好きです。
ロベルトジョビーのアレ的なやつ。
実際はもう少しちょっとしたセットで済むので、意外と手軽にできます。
もっと手軽にした”The Winning Formula”は手軽だけどインパクトもそれなりという感じ。
この辺は似たような現象を併せて載せる意味ちょっとあるかなーと思いました。
個人的にはセットはいくら面倒くさくても手順がすっきりするならそっちのが良いです。
Chapter Eight : Single Revelations
カードの当て方のバリエーション的な章。
“Leaping Tom”は基本的なトランスポジション風カード当てを回りくどくしたような感じのトリック。
この回りくどい部分の効果は理解できますが、ここの演出がまあまあ謎で、それならシンプルなのでいいのではという感想です。
似たような演出を使う”The Backwards Almanac”も同様。
“Dead Certain Location”あたりは原理ものカード当てで不思議です。
ここは演出はなんもないですけど、操作は比較的シンプルだし適当な動機付けもしやすい部類。
オリジナルからの改案ポイントも些細ですが効果的なように思います。
セットの大変さと操作の謎さのバランスがあんま良くない”The Short Deck Baffler”なんかは割と原理を無理矢理使った感。
こういう別にこの原理じゃなくても似たような当て方ができるというのはあんま魅力感じないですね。
カードを6つのパケットに分けるという作業感がある”Trost-worthy”、続く”The Automatic Locator”はカードアットナンバー要素も含み、かなり苦しいセリフが付いてて、もうちょっと頑張ってと応援したい気持ちになりました。応援上映に向いてます。
Chapter Nine : Double Revelations
今度は2枚当てます。
2枚当てれば2倍不思議というわけではないの大変悲しいですね。
原理的に2枚選ばせないと上手くいかなくて、そこに適切な設定がついてれば面白いのですが、これ2枚でも行けんじゃねみたいなノリの作品もあります。
例えば”Super Duplex Count-Down”は2枚選ばせることで明らかに長くなってるし原理の面白さが増してる感じもありません。
“The Magnet”とかは1枚のカードの両サイドに選ばれたカードが来るってことで2枚選ばせる必然があってまだいけます。
現象起こる直前のフェアさも良いですがハンドリングは微妙です。
“Thinking and Sinking”も2枚のジョーカーを使った捻りのあるカード当てで見た目のインパクト的にも2枚選ばす意味ある方かなと。
ただEffortlessにこだわった結果かハンドリングは激重。現象的には好きな方ですが。
Chapter Ten : From Here to Here
移動とかトランスポジションとかそういうテーマのチャプターで、現象おもろいのが揃ってます。
“Clear to the Point”は透明のケースから観客の手にサインカードが移動する現象。
ジョーカー4枚用意しなきゃいけないのはあれですが面白いです。
パームオフとかサンドイッチ系の移動トリックってカードをズレないように置いたりするのがアレだったりするんでケース使うのは良いっすね。
消失も綺麗で、透明なものが残るというのが素敵です。
“M.I.M.C.”はSignature Trancepositionのバリエーション。
2人の観客に1枚ずつ、それぞれ裏模様が違うカードの両面にサインをしてもらってその表面がサインごと入れ替わるというものです。
マニア的にはもう一工夫欲しくなる感じのハンドリングではありますが、ここはセリフもちゃんと付いてるし堅い感じで良いと思います。
なんかよくわからなかったのは”A Transposition?”というやつで、トランスポジションにワンステップ追加したものですが、いたずらに事態をややこしくしてるだけで現象がぼやける典型だと感じました。
トランスポジションで移動するカード以外の情報はかなり邪魔だと思います。
Chapter Eleven : Mystic Spells
みんな大好き、日本人が特に大好きなスペリングの時間だよー。
“Spell Or Deal, It’s Up to You!”はスペリングかダウンアンダーの二択というどっちもラッキーパターンで超最高ですねって死んだ目で書いておりますが、お手続きの極みのような手順です。
いやー原理としては面白いと言っても結局その枚数目に行くための文章考えゲーやんというのもあって、これは観客から見てもそう見えてしまうのではないでしょうかね。カードの名前を綴るというならそこは説得力になるわけですけど、後出しでこうやって綴って下さいみたいなのはどうももやもやします。
朗報としては日本語の置き換えは結構簡単です。こぞって演じましょう。
スペリングの変わった使い方として”The Spectator Makes a Sandwich!”という観客が操作するコレクター現象があるんですが、これもひたすら演者の匙加減が展開されるので観客が現象起こしたように全く見えなくてなかなか辛いです。
いやでもスペリングにありがちな演者都合のあれこれって手品の重要な部分でもあるので、その辺考えるきっかけのネタとしては悪くないかもしれません。
Chapter Twelve : Thanks to Hofzinser
ホフジンサー系のトリック。
エースプロブレムは”Hands Off Hofzinser”という手順で、名の通りハンズオフで現象が起こせるようになってます。
ノーフォースですが、選んでもらってからA出すパターンでちょっと鈍臭い感じも否めません。
エースを観客に選ばすとこは賛否ありましょうけど、これはこれでありって気はします。
ホフジンサーエースの現象のテンポからしても途中に観客に操作してもらうところがあってもええかなと。
“Hofzinser On The Up”の方はサンドイッチカード的な要素も絡まったホフジンサーエース。
エース、サンドイッチカード2枚、セレクトカードと要素が増えて混乱する上に見た目的にそんな綺麗でもないです。
一応ディスプレイにややこしくなりすぎない工夫はありますが、入れ替わった感はやや弱いっすね。
可能性ありそうなのは”Hofzinser By Stealth”という手順で、気になるとこは多々あれどシンプルで他のもろもろは解決されてる感じです。
まあ気になるところは少し頑張ればなんでも置き換え可能なので好みにいじれるとは思います。
現象的におもろいのは”Vanished Or Gone”という観客が自由に思ったカードが消えるというプレモニション的なやつ。
特になんということもないトリックっちゃそうですが、バッドエンドの場合でもそれなりに見栄えがするし普通に不思議に見えるはず。
ボブファーマーのハンドリングも別で載ってて演出的にはそっちがおもろいです。
これは普通に良作。
Chapter Thirteen : Thanks to Hummer
Bob Hummer作品の改案の章。
“Still Scheming”は裏表混ぜたデックを広げると、選ばれたカードと同じマークの数字だけが表になってる現象。
確かにランダムに混ぜた感はあるけど、バノントライアンフと違って順番通り出せないのはなかなか辛いです。
ぐちゃぐちゃの方がカード当てる部分のサプライズ感は強まったりするんでしょうか。
あとMindreader’s Dreamの改案がいくつか載ってます。
それぞれ質問なしとかセットなしとか色々頑張っているのですが、そっちが立てばあっちが立たずというのがよくわかる例と言いましょうか、元の原理から特に超良くなったって感じはないです。
あとやっぱ作業感強すぎてThink a Cardには見えんですね。
もう少しカバーする演出に工夫があれば良かったのですが。
というかこれの改案ってJohn Lovickのあれみたいにハンドリングとか原理の強化よりいかにあの作業に意味を持たせるか勝負なんじゃないんですかね。
Chapter Fourteen : Unclassified Sectets
分類なしのトリックって章題ですが、ここまでもごった煮すぎて分類出来なかったので特に驚きません。
“An Odd Occurrence”はアクロス感強めのサンドイッチカード。
消失部分に某原理を使っていて、その謎の消えた感が味です。
いやまあその枚数なら普通に表見せてよって思わんでもないですけど、このトリックはセリフも気が利いててその辺はなんとかなりそう。
“Backfire Poker”は一回普通に配って、次は観客と演者10枚のカードだけを配り直すみたいなことをするポーカー。
これは手軽だし結構良さそうです。
手が二つしかないのでなんとなくオチが読めちゃう感じあるかなーとは思いましたが、2段目あるの知らなかったらまあ大丈夫でしょうか。
あとこういう変則ルールのだと序盤のマジック的な手法もそんなに気にならなくて良いですね。
“A Plain Sandwich”もサンドイッチ現象で、サンドイッチの分類的には上と下に置いたサンドイッチカードが真ん中に移動して挟むタイプ。
導入の説明や現象起こる前までのプレゼンテーションが上手くいけば中々理想的なサンドイッチ現象ではありますが、ハンドリングもちょっとしんどい部分ありますしサンドイッチカードを伏せておいておくという部分があって全体的には怪しいです。
“Torn, Folded, and Sealed”は観客2人と演者のサインカードで行う3点方式のトランスポジション。
カード折ったり破ったりするとこのセリフがトランスポジションに面白みを与えていて、なんてことない手法でも形状も変化することでインパクト高まります。
デビッドウィリアムソンの後だしあれ超えるのは難しいですが、ここのセリフと見せ方は工夫が見られていいです。日本語で適当に置き換えだほうがわかりやすくできそう。
最後の章は演出やセリフが結構ハマってて良かったですね。
それ以外はやや文句多い感じになりましたけど、原理や技法を足し算するセンスは素直に凄いと思いますし、引き出しの多さだけでは出ないよなーというアイデアもあるんで発想の源泉的な何かも得られます。
あとまあ足りてない分読みながら自分ならどう演じるかとか考えたり、そこからまたハンドリングをいじったりあーでもないこーでもないやってかなり楽しみました。
でもやっぱり考えなくて済むなら考えたくないというか、この世からEffortという概念ごと消え去って欲しいと思ったりもするんで、作者はもうちょっとEffortして欲しいという気持ち。
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