by jun | 2020/10/24


マジックマーケット2020で発売された佐藤水城さんによるレクチャーノート。
物騒なタイトルに惹かれて買いましたが内容はもっと恐ろしかったです。


まず”阿弥陀#2.2″。
これはあみだくじで観客が大吉を選ぶ手品です。観客は自由に一箇所選び、演者はそこからあみだくじを辿っていくだけ。
あみだくじは日本人には非常に馴染み深く、文句の出ないように物事を決める時にも使うぐらい公平であることも周知の事実ですが、そのフェアさを一切はみ出すことなく全ての手続きが行われます。
手品というのは裏の仕事を表面上うまいこと取り繕うもんで、その正当化が自然であるほど観客が疑念を持つことがなくなりますけど、これは本当に観客が指定した場所からあみだを辿っていくだけなんです。
ここまで自然な流れで仕事をやり遂げてるのはちょっと他に思いつかないぐらい。
あえて言えばある種のカードマジックで何かの手続きが実は演者の都合良い状態にするためのものだったというのがありますが、何回も言うけどこれはみんなが知ってるあみだくじなんですわ。それを見たら誰だって運動会で流れてる音楽を口ずさみながら辿っていきたくなるのをやるだけっていう、手品のための手続きではなく生理的な衝動すら生まれるんですからこれ以上の正当化はないでしょう。

んで、この強固な原理をどう手品として見せるかという演出の部分もとてもよく考えられています。
品が良く、絶妙なバランスで不思議さと嬉しさが来るような、これもあみだくじという日常に根ざした題材だからこそ達成できる余韻でしょう。
素材や原理の新しさだけでなく、観客に与える印象も他にこういうのないよなというものになってるのがこの作品を特別なものにしてる要因だと思います。
演出については52Hzのムナカタヒロシさんによる別案が解説されていて、これは何かが起こりそうな予感と手品的な力で大吉に導かれた感を補強するようなもので、現象のシンプルさを損なうことなくこの手品で伝えたいことを明確にしています。
どちらもあみだくじのあみだくじらしい面白さを打ち出した見せ方なので、TPOや演じる相手、前後に演じる手品などによって使い分けていきたい。

続く”阿弥陀#1.3″もあみだくじ手品。
タイトル的にはバージョン違いですが現象は別物になっています。
4箇所の中から3つに○、△、×の印を観客の指示で書き込み、観客に横線を引く場所を指定してもらいながらあみだくじを作っていき、辿っていった先を見ると○のとこには○、△のところには△、×のとこには×が書かれています。
観客の選択肢が広がっていて予言の数も増えてるのに解説を読むとなるほどと思えるすっきりした原理です。
先にやることを説明しておけるのと、途中からはずっと観客の指定した場所に線を引いていけるので見た目上も演者都合感がありません。
もし別の選択をしていたら全く別の結果になっていたという印象が強く、これも線一本で複数の結果が変わり、なおかつ最終的に全体像を把握できるあみだくじならではの強みだと思います。
3人の観客それぞれの選択が他の全員の結果に影響を与えるというのも他にはない感じじゃないでしょうか。

最後の”Card Place Location”はカードマジック。
選んでもらったカードをデックに戻したあと、観客にデックを3つのパケットにカットしてもらい、それぞれのトップカードを取る。1枚目でマーク、2枚目で数字が判明し、3枚の数字の合計枚数目に観客のカードがあります。
カードの選択も3つに分けるところも自由度は高く、コントロールや技法っぽい動きも排されていてとても不思議。
というかこれどこかをフォースにしたところで綺麗に出来そうもないですけど、オートマチックに達成していて凄いです。
現象としてもカードを当てた後に場にあるカードを使って枚数目もわかるというのが綺麗だし、観客がやることがシンプルだから自分で当てた感が強い。

ということで3作品ともとてもとても良かったです。
特にあみだくじは全く未知の世界でしたが、潜在的にこういう手品を求めていた気がするぐらいハマりました。

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