by jun | 2018/05/01

ピアノトリックといえばカードマジック事典の「カードが移動するマジック」の章に載っていて、アンビシャスカード、オイルアンドウォーター、フォローザリーダー、ホーミングカードあたりと同じカテゴリーに解説があります。
ピアノトリックは他の移動現象よりも知名度は低いですし、当然演じる人も少なく、改案作品も多くはありません。


理由の一つとして長い前振りが必要な割に現象がわかりにくいというのがあると思います。
具体的に何のカードが移動したのかわからず、移動したということを言葉による説明でしか示せない難易度の高さ(怖さ)も演じる人が少ない理由かもしれません。
カードマジック事典にも「見せ方がすべての奇術である」というパワーアドバイスが書かれていて、特に本で先に解説読んじゃうと「こんなん不思議ちゃうやん」って思ってしまう人も多い気がします。

とはいえパケット同士の接触がなくカードが移動するのは大変魅力的ですし、自分はこういう騙くらかし感ある手品が好きです。
日本だと澤浩さんやゆうきともさんが改案作品を発表してるのでピアノトリックファンも多いかと思います。

そんなピアノトリックシーンに強烈なやつがきました。
こざわまさゆきさんが今年のエイプリルフールにzero little tricksという電子書籍の形でピアノトリックの改案を発表されています。
4月末には齋藤修三郎さんによる「Another Handling of “Old Maid’s Piano”」も公開され、どちらも無料でダウンロードすることができます。

zero little tricks – gumroad

zero little tricksはもちろんこざわさんの著書のten little tricksにかけたもので、そちらはそちらで大変面白い本なので近いうちにレビューします。
この「Old maid’s Piano」が気に入った人なら楽しめる本だと思うので是非。
たぶん「Old maid’s Piano」を気に入らない人はそんなにいないのでみんな読むと良いです。

というわけで「Old maid’s Piano」ですが、ゆうきともさんが演じている動画があります。
こちらは齋藤修三郎さんのハンドリングです。

ちょっと非の打ち所がない改案だと思います。
Old maidというのは英語でババ抜きのことで、ピアノトリックにおける「ペア」に大変説得力がある理由ができました。
この手品はジジ抜きですが、ペアである必要も余分なカードがあることも、それを相手に押し付ければ勝てる筋も、全部ピアノトリックの原理が活きる設定です。
よくギャンブリングデモンストレーションについて「日本人はポーカー知らないから」というあれがありますが、ババ抜きジジ抜きなら馴染み深いですし、使われるゲームのルール性と原理のマッチぶりが本当に素晴らしいです。
何のカードが移動したのかはっきりさせつつ原案の騙くらかし感も残していて、カードを二つに分ける理由もついています。
こざわさんのバージョンはちゃんとピアノのやつやるのですが、後半の動機がはっきりしてるので間延びせず興味を惹きつける動きとして機能します。
齋藤さんの案はピアノ部をなくし、配った後がすっきりしてるので演じやすいのはこっちでしょうか。
大きく違うのはジジの抜き方で、どちらも自然なので良い悪いはなく好みの問題でしょう。

ちょうどカードカレッジライトを読んでセルフワーキングについて色々調べているところにこんな傑作が来たので感動した次第です。
この1ヶ月色んな人に演じましたがマニアにもそうでない人にも受けはよいです。
セルフワーキングでここまで原理の気配がしないのも珍しいんじゃないでしょうか。
エイプリルフール企画としての気の利きっぷりも人生ベスト級。

zero little tricks – gumroad

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