スコットロビンソンの凄い作品集です。
まず装丁が凄い。
最近のVanishing Incの本はだいたい気合い入ってるけど、これも高級感半端ないです。
ベロアを硬くしたような張りになっててテラテラしてるし肌触りがとにかく最高。
買っただけで満足勢には非常に危険な一冊で、さわさわしてるだけで一日終わってたとか余裕であります。
そして内容も凄くて、おもろい動きとか現象が目白押しです。
ポールハリス的なセンスと言いましょうか、既存の手法を順列組み合わせするだけでは達成できない事をやっていて裏も面白いし現象としても魅力的。
オリジナル技法や細部の工夫は応用範囲の広いものが多く、上手く取り込めばいかにも技法やりますっていう瞬間を減らせると思います。
面白い演出と手法のカバーが一体になってるものもいくつかあってとても好みに合いました。
解説はカラーの写真がふんだんに使われていて、ビジュアルな現象も多いし本人の筆でもないのでDVDにしてくれやと思わんでもないのですが、現象自体がちょっと変わってたりシンプル作業で不思議なことが起こったりするようなものは本で読んで実際試した方が感動が大きかったりします。
コインは結構歯ごたえあるものが多いので実演見たかった気もしますけど、写真でパラパラ漫画のように見えるものが実際やってみると割とスムーズにいくーみたいな快感もあって楽しいです。
DVDより本の方がお部屋の飾りとしても良いですしね。
うちでは幸いにも有益な本のインテリア化を避けることができたので作品ごとに軽く紹介したいと思います。
The Toy
カードの貫通現象。
2枚のカードを折りたたんでぶすーっといきます。
オープニングトリックになってるだけあってむちゃんこ面白いです。
お札の貫通現象とかに使われる原理なのですが、カードをそうやってこうしたらできるのかーってところもあり、ハンドリングもとても良いです。
折って良いカード2枚あれば即興でできます。
The Willy Wonka Card Trick / Willy in Your Pocket
本書の目玉となるカードの消失現象。
横向けたカードの下に縦にカードを押し込むと消えるという感じです。
消失後のあらためまでとても良く練られていて、ビジュアルさの割には低負担。
Willy in Your Pocketはそれをルーティン化したもので、サインしてもらったカードが2枚のカードの間で消えてポケットから出てきて、次は2枚の方が消えて別々のポケットから出てきます。
上手いこと考えられてる手順で
、こういうサインカードの使い方するやつ良いっすよね。
Different Differences
パースに3枚の銀貨を入れて、テーブルに置いてある1枚の銅貨が銀貨に代わり、ほかの2枚の銀貨がパースから出てきてバラバラの位置に出現します。
この後にもこの手の入れ替わり現象があって、1枚から3枚にという変化じゃなく変化するのは1枚で他のはもう移動してましたというのが超鮮やか。
Sucker Monte
カードを入れ替えたりしないスリーカードモンテ。
途中まではテーブルいらずで、定番のムーブをパケットの分離をさせずにやったような解決法。
1段目と2段目は特に錯覚が強く、あんまり早くやらなくてもなんとかなりそうな感じです。
Loose Change
手の中のコインと手に持ったコインの入れ替わり現象。
ノーギミックノーエキストラで超お手軽です。
日本のお金でも出来ますが、ちょっと音が気になるかもしれません。
The Queen Thing
アシンメリトリカルトランスポジション的なものなのですが、ちょっと段階を踏んでいて負担がかなり低減される作りになっています。
たぶん一般のお客さんだとこういうステップがあった方がわかりやすいんじゃないでしょうか。
カードのバニッシュを示すディスプレイも一工夫あり、説得力が上がってます。
ミステリーカードのバリエーションが紹介されていて、ここでスリーカードモンテの時のムーブが活かされていておーってなります。
やっぱ全体的に応用範囲広い。
Visual Retentive Vanish
ラムゼイコインバニッシュのスコットバージョンらしいです。
世界のコインマジックに載ってるソルストーンバージョンしか知らないのですが、スコットバージョンは手の向きが違ってリテンションバニッシュっぽい感じになってます。持ち手の指をほぼ動かさなくてもできるようになってるのと、割と簡単で両手とも習得できそうな感じなのが良いです。
Slide Load
複数枚のコインを隠しながら1枚のコインを左手から右手に渡す方法。
要は音もさせずにお手洗い的なことをするわけですが、コインを示す動きの流れで出来るようになってます。たぶん、自然に出来れば。
どうしても音鳴らさんように気をつけると手がなめらかに動かんですね。
Quick Kings and Aces
AとKのトランスポジション。
各パケットから1枚ずつ交換するスタイルのやつで、ディスプレイはしゅこしゅことカウントしたりクルクルしたりグイッと上げてファサッとしたりしないやり方です。
ちょっとそれぞれのパケットの示し方が違うのが気にならなくもないですが、一応スタート時の状態によって気にならないようにはなってます。
その後自然に示せるし、リセットとか水油とも普通に相性良さそう。
説得力を増すセリフもちゃんとついてるし、パケット内クルクルは結構これに置き換えるんじゃないでしょうか。
Trading Spaces
JackSyna(ps)cesのバリエーションです。
朗報、パスしなくていいです。
パケットをデックのトップに重ねすらしなくてよくて、4枚の変化が独立して起きるので気持ちいいし、あーそれとそれ一緒にできちゃうのかーという、これの改案考えたことある人なら感動すると思います。
AとKのパケットを接近させるところがあるのは個人的には結構マイナスポイントなのですが、これは説得力あるし後半で十分カバーできてるから良いかなという感想です。
Carpal Tunnel
コインが手の甲を貫通する現象。
中から外と外から中。
この手法なのにこういうことをするのかーというこだわりが感じられる作品です。
実際演じようと思うと負担が大きいわけですが、手首がくねくね動かずリアルに甲を貫通したように見せるにはこういう感じになるのでしょうね。
3枚でやるバリエーションも解説されてます。
Sliding Scale
リバース技法です。
カットや手首を返す動きはなく、スプレッドして揃える動きだけでデックの真ん中でリバースさせます。
Modern Handlingとして紹介されてるやつだとボトムからもいけて、この後の手順にもいくつか使われています。
このModern Handlingはとても手に馴染みました。別の動きでカバーするリバース技法の中ではかなりコンパクトにまとまってる方ではないでしょうか。
Just One Move
アンビシャス現象からアンビシャスカードのメイトカードが出てきて、その2枚が残りの2枚のフォーオブアカインドをサンドイッチするという手順。
上の技法を使うのですが、連続した現象の手順だとより気楽に使えて便利です。
Who’s Counting?
観客が言った枚数をデックの中から取るやつで、数えた最後のカードが観客の選んだカードになってます。
上から持ち上げるとかじゃなくてデックに指突っ込んで中から抜き取るのでかなり不思議に見えます。
カード当て要素があるからガチ芸すぎない感じで見せやすいです。
Bill Me
財布の中のお札と手に持ってる4枚のコインのトランスポジション。
この方のパース使いは全部面白いですね。
意外と音鳴らさないように頑張らなくて良い手順で、色々と配慮されています。
日本円でも可。
Over the Hills and Back Again
3枚のコインの消失と出現。
消していくところ繋ぎ方は面白いけどめちゃ難しいです。
でもカードの感じ見てるとそこまでハードなことやる人でもないしコインやってる人なら出来ちゃうのですかね。
この手のやつでは角度に強い方だと思います。
100% Probability Sandwich
最初トップに2枚あったサンドイッチカードの1枚が徐々に移動していく系のサンドイッチです。
最後はシュッ。
イメージでいうとサンドイッチされてる状態のカードがどんどん増えてシュッで1枚になる感じで、綺麗な流れだと思います。
実際にやってみるとシュッに前振りがあるとシュッが全然別物に見える。
Severance Pay
カードとお札の貫通です。
めっちゃ気持ち悪くぬるっと抜けます。
The Toyより準備はいりますが、貫通した感もやばくなってます。
Automated Teller Card
4枚のコインを4隅にプロダクションします。
使うカードは1枚で、演出の妙にもあって意外性がありハンドリングもそこまで無理のない感じです。
Big Bang
バックファイア落ちのマトリックスです。
途中でカードが増えるという変わった演出が使われていて、カードの位置に囚われないで済むからバックファイアの前段階が色々と楽になってます。
状況確認的な段取りが一個減らせる感じ。
A Buttery Spread
スプレッドの動きの中で行うコントロールです。
解説読むとバタフライの意味がわかります。
あえてこれっていうシチュエーションもそうないとは思いますが、角度に強くカットやシャッフルの動きを入れたくない場合にはいいかもしれません。
Manifold
最初に色違いのカードを1枚、2枚のカードの間にサンドイッチしておいてからカードを選んでもらいますが、色違いのカードが裏も表も変化してセレクトカードになり、色違いはデックから出てきます。
強烈です。
この強烈さが色々カバーしてくれることもあり、普通に実用的だと思います。
演出も色々考えられそう。
Sprite
マルチプルセレクションのコインカット。
あんまり見たことないけど確かにこれ繰り返すとおもろいですね。
なんとなく一回では物足りない感じもありますし、何が起こるかわかってから見るとより不思議な感じも出ます。
構成的にもカードの位置はバラバラに見えるし予想がつかない展開になってると思いました。
Repackaged Prediction
予言の前にポーカーの手札の一致という現象が起こります。
イロジカルな動きにはワンクッションというのは基本ではありますが、その段階で更にフリーチョイス感を足せていてなかなか渋くていい感じです。
かつ予言もダイレクトすぎず、予定調和感がなくて前の現象を弱めるようなことになっていません。
オチが予言の連続した現象の組み方の参考になるような手順です。
Triple Crown
パースに入れた3種類のコインが1枚ずつ出てきてまた元に戻ります。
こういうコインの構成だとこういうことが出来る、みたいな事を考えるのがめちゃくちゃ上手い人ですね。
なんとなく種類を変えたコインでやるとマニアックな印象になりがちですが、普通に誰に見せてもそれだと不可能性高そうって感じに見える手順だと思います。
Top Slop Gag
何度元に戻しても1枚だけ表向きのカードが出てくる、みたいなコメディタッチの手順です。最後はぐちゃぐちゃになります。
オチは見た目的なインパクトは強いけどややすっきりしない感じが残るので、実際に演技に取り込もうとすると使い所は難しそうではあります。
ここからトライアンフに繋げる、というのもちょっと茶番ぽくなりそうですが、まあギャグ部分がウケさえすればどうとでもなる感じでしょうか。
Changing Hands
3種類のコイン3点方式のコインのトランスポジション。
観客2人の手と演者の手を使います。
意外とシンプルなセットと操作で、観客の手には変なものが残らない仕様。
これコインの中ではかなり気に入りました。
H.G.’s Pocket
タイムトラベル演出のカードインポケット。
2枚のサインカードが別々のポケットから出てきます。
パームも不要です。
タイムトラベルものはクラシック手品に無理矢理その演出をつけたものも多くて別にそれも悪いものではないですが、やっぱり裏の仕事とストーリーが噛み合ったものはええもんですね。
こういう手法を負担に感じる部分もありますけども、そのストレスを最低限にする工夫がされてます。
Riding the Wave
レギュラー版インビジブルデック的なやつです。
この手のやつはうーーんってなるのが多くて、近いやつがあるというのもあって、これもまあうーーんという感じです。
メモライズドデック使えばうーんぐらいにはなりそうで、別ハンドリングで解説されてるものにはちょっと可能性を感じました。
要はインビジブルデックと比較してメリットとデメリットのバランスがどう変わってるかというところで、インビジブルデックは渡せないというマイナス面の代わりにすぐ広げられるっていう馬鹿でかい利点があって、いくら演出でカバーしてもやっぱりあの感じって出にくい気がします。
もちろん手渡せるというのも大きな利点だし、比べさえしなければというのはあるんですが。
Sponge Coin
両手を空に見せるコインバニッシュ技法。
多分この手のやつの中では結構簡単な方で、変な動きもないし慣れたらほぼ確実に決まるものだと思います。
手のコンディションもそこまで気にしなくていいやつ。
Changing a Fan Belt
デックを半分に分けたパケット間のカード移動です。
最近のだとシュパっとやってシュパっと出てくるので、そういうのと比べるとさすがにちょっと重たく感じますがこれも味といえば味でしょうか。
なんか超あり得ないというより微妙にやらしいハンドリングが入ってて結構そういうのは好きです。
Daley Double / Daley Double Change
ラストトリックです。
これはめちゃくちゃ良くて、最初に4枚を赤黒に分けて示せるし1枚ずつ確認するような野暮ったさがありません。
ダイヤとハートって感じのリズムでささっと渡せます。むしろお金とか愛とか言ってるとテンポ悪くて錯覚弱まるかもしれません。
Daley Double Changeは同じ技法を使って4枚のジョーカーを4枚のKに変化させるトリックで、色々応用できることからこの技法がパケット手品界で結構流行る予感があります。
Changeling Coin
銀銅チャイニーズが、銀銀銀に変わってまた元に戻って最後は銅銅銅になります。
この編成でこういうことできるのかーって感じで、まあ大変は大変なのですけどかなり整理されてる感じです。
Da Vinci Coins
ワイルドコインですが、変化したコインをコップに入れる演出がおもしろくて、元に戻る瞬間がめちゃくちゃマジカル。
演出を活かしたハンドリングにもなってて、面白いし観客の体感的にもめっちゃ跳ねるんじゃないでしょうかこれは。
Dragnet Jacks
ノーセットで行うコールカードのサンドイッチ現象です。
上の方と下の方に刺したジョーカーの間が詰まる系のやつなのですが、かなりズルいことをしていてとても好み。
前段階で普通にサーチャー系のサンドイッチをやるとより効果的かもしれません。
手数はあるんですが、なんかあんまり嫌じゃないです。
たぶん作業前の何も起きてない時に何かが起きたように振る舞えるからだと思います。
The Tooth Fairy
クローズアップ版マイザーズドリーム。
子ども相手によく演じるそうですが、別に子供騙しということはなく、手堅いハンドリングだと思います。
Money Changers
4枚と4枚のトランスポジションで、片方の4枚をお札に包み、はみ出た部分がビジュアルに変化します。
めっちゃ気に入りましたこれ。
変化の瞬間が面白いし仕掛けの扱いも思ったより楽。
日本のお札だと幅が広くてカード見える範囲が減っちゃいますけど出来るのは出来ます。
SACC (Semi Automatic Cascade Control)
チャーリーミラーのカスケードコントロールのセミオート版。
カスケードもまあまあ適当で良いし、セレクトカードをあれするところが本当にオート感があってストレスがありません。
Coins, By Golly
2枚の銀貨と1枚のチャイニーズコインの位置が変わったり枚数が変わったりします。
コイン移動見せてその後分裂とかだとあーはいはいって感じですが、トランスポジションから配分が変わるという流れだと直接そういう考えには至らないのが良いですね。
まあ演じ方には工夫が要りそうですけど、こういう独特な感触の手品は好きです。
Home Wrecker
4枚のQと4枚のKをぐちゃぐちゃにして、同じマークのペアが隣り合うやつです。
オイルアンドウォーターをより細かくやったような現象で、実際ハンドリングもよりややこしくなる作品もあったりしますが、これはセットさえ覚えれば3段目まで簡単にいけます。
見た目もそこまで煩わしさはありません。
3段目にその手法使うのかというのはやや好み分かれそう。
Count Me
観客が自由に選んだカードを自由に差し込んでもらって、その位置からカードの枚数分配ると選んだカードが出てきます。
ありそうでなかった感じ、普通に良いです。
別に差し込んだところからダイレクトに出す方法もいくらでもあるわけですが、差し込むカードにも差し込む場所にも意味があるってところが素敵だと思います。
カードを数える前の緊張感の作り方としてもかなり良いんじゃないでしょうか。
Heavy Metal
銀、銅、チャイニーズで行うスペルバウンド。
ノーギミックで8回変わります。
ほとんどスペルバウンドポジションの位置で変わるようになっているのが渋いです。
意外と隠してるとこにアテをつけられにくい一連になっています。
Totally Under Control
マルチプルシフトです。
差し込んでから抜いたり混ぜたりしないで良いやつ。
シチュエーションにもよるとはいえ、マルチプルシフトはこれ系が最強だと思ってて、このバリエーションは差し込んでマジで完了というのが最高ですね。
The Sound of Silence
コップにコインが移動していきますが、音がしません。
見ると増えてます。
コインマジックはチャリンするところに喜びがあると思っていましたが、ポールガートナーの鉄球的な、音がしない驚きもあるよなーと。
演技次第ではかなり気持ち悪い手品にできそうです。
そんなわけで凄い本でした。
これだけ構造が良く出来てて見せ方的にもおもろいのがこの量載ってるってのが凄いし、驚くべきことに作品の多くが80年代後半から90年代初めに発表されてるという。
こんなとんでもないのが埋まってるならスティーブビーム先生のTrapdoorとSemi Automatic Card Magicのシリーズも絶対読んだ方が良さそうですねってインテリアのような何かを眺めながら思いました。
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