マジックはサプライズ要素が強い特性上、あれとこれどっちがいいかみたいなものを比べるのが難しいものです。
見た目でわかる手法の違いはまだ自分で比較できますが、ああすれば観客はこう見てくれるとかこっちの方が強い印象を残せるみたいな理論は比べようがないので自己満足するしかありません。
その手の理論は納得はできても信じきれないものも多いですが、がっつり解説してくれてこうやって演じてみたいと思わせてくれるものもあって「リフレクションズ」もそういう本の1つです。
ヘルダーギマレスがどのようにマジックを作ってどのように演じてるかというのが理論と共に語られていて、解説されてる手順以外にも通じる考え方が詰まっています。
基本的には創作に関する本ではありますが、あの手順もこうやって考えて工夫すれば良くなるかもとか、この手法嫌いだったけど活かし方もあるなとか、手品をより良くするエッセンス満載です。
解説されてる手順はどれも現象がわかりやすく、巧みに観客の思考を誘導して、演者は何もしてないように見えるものばかりで、ヘルダーギマレスによる応用法なども書かれているので一手順読むごとに何か自分もパワーアップした感が味わえます。
特にアスカニオやタマリッツの理論をベースとした、セリフに頼らない錯覚を生み出す構成は非常に勉強になります。
カード、サイン、グラス
サインさせたカードのカードアクロスです。
色違いカード同士でやるので不可能性も高く視覚効果も強いアクロス。
このマジックでは「現象と手法の分析」として、現象から手法を考え、観客にどう見せてどう感じてもらえるようにするかということについて語られます。
手法は死ぬほど賢く、サインさせたカードの移動を怪しい部分が一切なく、怪しい部分が逆にサトルティになってたりして完璧すぎました。
サインさせてパケットに戻して、ワイングラスに入れて観客に持ってもらう。
この時には作業完了という状態を目指して作っていくわけですが、ここまで完璧にできるもんかと感動します。
スリーカード&ボックス
3枚のカードが箱の下、フィルムの中、折りたたまれた状態で箱の中、とそれぞれ出てきます。箱の中から出てくるカードはサイン付き。
この手順は「スリー・アクト構造」という映画や演劇でよく使われる三幕構成について。
単に人が慣れた構造だから見てて気持ちいという話だけでなく、次の段階ごとに現象のセットを完了させてしまい、観客的にはどんどん不思議に見えるよう構成していきます。
移動現象におけるサインの扱い方、カードの折り方についても触れられていて、大枠ができてからの細部へのこだわりというもんの大事さがよーくわかります。
スリー・プログレッシブ・チョイス
3種類の方法で選んでもらったカードを取り出して、最後は他のカードがブランクになるオチのマジック。
ベースはピットハートリングの”Finger Flicker”です。
“Finger Flicker”自体が恐ろしい構成力で出来てる手順ですのでそこに現象足したらヤバそうな気はしますが、カードの選ばせ方とブランクオチが見事にハマるように設計されています。
エース&グラス
赤のAと黒のAのビジュアルな交換現象です。
レギュラーで行うものではありませんが、読みどころは「不完全な終了状態を活かす」という、どうせギミックなら他にも使おうって話です。
貧乏性なので元からこういう考えでしたけど、ギミックカードについてはなんぼでも応用できるという確信が得れます。
カード、数字、マッチ
数字フリーチョイス、カードフリーチョイス、数字言われた時にデックはテーブルの上、を条件としたカードアットエニーナンバーです。
「条件から構成する」というテーマなのでエニーナンバー系はぴったりの題材です。
エニエニでないからかあまり話題にならないような気もしますが、めっちゃ賢い手順です。
マッチの使い方やセリフによる軽い印象付けと伏線、その回収の仕方など見事です。
オチがあることによってフリーチョイス感が減りそうなところも、演出でうまくカバーしてビッグサプライズにしてるあたりも最高でした。
そんなわけで読んでる間、うまい賢いうまい賢い感じることしきりな本です。
全てのマジックに通じることは、現象が先にあるということ。
例えばギミックやデュプリケイトを混ぜなきゃいけなくなっても、観客にはそう思わせないようにまた考えればいいやという頭の柔らかさがあります。
全ての手順がレギュラーカード1組で演じることができませんが、パズル的な面白さよりも観客のリアクションを求めるなら現象に重きを置くべきだと思います。
デュプリケイト使うならフォースに説得力を持たせたり、ギミック使うなら使い回したり、そこからまた新しく色々考えるってのも楽しいもんです。
読んでわかるのはヘルダーギマレスは手法の弱い部分や脆さに非常に自覚的で、マジシャンじゃなければ気付かないだろうという甘えは一切ありません。
逆にマジシャン特有の動きみたいなものも避けていて、より幅広い観客を煙に巻くように構成しています。
そこまで突き詰めていくと裏側から見た美しさみたいなものは失われる気もしますけど、ギミック使ってようが綺麗なもんは綺麗です。
この目的のために先人の知恵も借りつつ頭使って観客に満足してもらうってのは創作全般に通じる話だと思いますし、もちろん手品マンは必読の一冊じゃないでしょうか。
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