by jun | 2018/10/22


2017年のマジックマーケットで発売された、Matching the Cardsがテーマのレクチャーノートです。
Matching the Cardsについては本書の序文で触れられているのでそのまま引用させていただきます。

1. 最初にカードが裏向きで1 枚選ばれます。このカードはそのまま伏せて置かれ、カードが何であるかは誰も知らない状態です。

2. 演者は「このカードと同じ数字のカードをあと3 枚見つけてフォー・オブ・ア・カインドを揃える」と言ってデックをカットし、3 枚の8を取り出してみせます。

3. ここで観客がテーブルに伏せられているカードをひっくり返してみるとK で、失敗したかのように見えます。

4. 演者は「こちらのカードを全部変えてしまいましょう」と言い、先ほどの3 枚をもう1度見せるとそれらはK に変化しており、フォー・オブ・ア・カインドが揃います。


フォーオブアカインドが揃うし意外性もあるし、とっても素敵なプロットですね。
置いてたカードが複数変わるのはマジシャンvsギャンブラーやジェネラルカード的な物とも似てますが、カード選んでもらってその仲間を探すところが出発点なのがMatching the Cardsらしさって感じでしょうか。

サッカートリックなんですけど、選んだカードと違うっていうことを観客にカードを聞かずに見た目的に示せるので、観客に「失敗させちゃった…」と思わせなくていいのも良いところです。
失敗したと思わせた段階でだいたいの仕事が終わってることが多いので、ガチでリカバリーした感がないのも良くて、サッカートリックにおける失敗した演技の難しさも多少軽減されるかと思います。

この本には7種類のMatching the Cardsに対するアプローチが解説されていて、単なるバリエーションではなく見た目の印象も全く異なり、スイッチの仕方や使われる技法も様々で面白かったです。
セットを覚えなきゃいけないのがめんどくさいプロットですが、簡単にセットできる方法とかも書いてあって、一回手を動かして仕組み理解すれば覚えるのもそんなに難しくない方だと思います。

Shingleback Skinks

3枚のロケーターカードを使って3つの山に分け、そのトップをめくるとK、でも選ばれたのはA、それぞれの山のボトムを見ると全部Aという流れ。

失敗をチャラにしたというよりプランB的な趣があり、チェンジ手品における「前のカードはどこいったの?」とならないのが良いところです。
3枚のカードを出す部分で観客が参加できるのも面白く、Spectator Cut the Acesのバリエーションで裏も揃ってました的なあれのおまけ部分が観客のカードと揃うというのも段階的なオチ感があって素敵。

Collecting the Cards

選ばれたカードはAなのにKが3枚出てきてしまいますが、3枚のKの間に2枚のA、2枚のAの間からもう一枚のAも出てきてめでたしという流れです。

コレクター部分のハンドリングがめっちゃ良くて、何もない3枚閉じてまた広げると挟まってます。
厄介なセットが必要な手順ですがリターンは十分です。
ラストのサンドイッチ部分も無理なくビジュアルな出現で、しかもちゃんと裏向きで出せるのが良いですね。

4枚のKを出してAを3枚ダイレクトに挟むんじゃなく、3・2・1っていうリズムがとても綺麗でMatching the Cardsの流れとも合ってるしめっちゃ気に入りました。

Fixed Match

デックを2つに分けて観客に半分持ってもらってやるDo as I Do的な流れ。
最初の2枚はKで一致、2回目は片方がAになっちゃいますが、出してたKが全部Aに変わります。

1段目は普通にDo as I Doとして成立するので、オチのインパクトも強まります。
サッカートリックの問題点は前振りの予定調和感だったりしますし、こういう一旦ちゃんと現象が起こる手順はめっちゃええですね。
ちゃんと現象が起こるのでゴニョゴニョ部分の怪しさも消せますし、着々と準備が進められます。

Last Match

4枚のエースだけを使うMatching the Cardsで、赤と黒のマッチを狙います。
タイトルにも反映されてる通りラストトリック的な見た目なのですが、フリーチョイスパートがあるので印象的にはMatching the Cardに寄せることができます。
フリーチョイスのとこが面白くて、お金とか愛とかについてあんまり考えたくない時におすすめです。

Flash Match

3枚のカードが変わったところを観客が認識するタイミングがちょっとだけ早くなったMatching the Cards。
タイミングのギリギリ攻めててとっても良いです。

3枚のプロダクション部分はなんぼでもやり方変えれると思いますが、1枚ずつ表向きになってくってのもこの見せ方に合ってると思います。
「出したカードを裏向きにしてテーブルに置く」というもやっとする動きもありませんし、裏向きのカードを表向きにする動作が観客のカードをめくる時だけなので、いつの間に感が高まるのでしょうね。
オチ寸前のセリフもいい感じです。

Fault and Faint

観客に4枚のカードを触ってもらって、1枚ずつ見ると3枚目まではK、最後だけAで、それを頑張ってKに変えようとしますが他の3枚がAに変わります。

使われてる技法は便利なのと引き換えに使い所によっては怪しくなってしまうものですが、この手順では1枚ずつ確認するというのが不自然じゃないシチュエーションなので特に問題ありません。

この本の中だと1番難しい手順で、各地に難所が散らばってますがその分現象としては魅力的です。
前半のあれはアーロンフィッシャーのUnder Cover Switchとかでもいいかと思いました。

アーロンフィッシャーで思い出したけど、”Three Kings”ってMatching the Cardと言っていいんでしょうか。
あれは「何かだと思ってたカードが別のカードだった」というのをサッカートリックじゃなく見せれるのが良いですよね。

Snowcap

フォース感のないMatching the Card。
カードの選ばせ方もその後の動きも無駄がなく、原理的にも面白い一作です。

やっぱり3枚のカード出すとこに観客が参加するのは良いですね。
積み込み方が非常にクレバーで、オチはマニア視線で見ても不思議に見えるんじゃないでしょうか。

The Old-maid Trick

ここから先はボーナストリックでMatching the Cardsは関係なく、Matching the Cardsで満腹になった体へのお口直し的な位置付けなのでしょうけど、このトリックはかなりいかついことになってます。
現象としては演者が後ろ向きの状態でババ抜きをしてもらって、途中でババを持ってる人にババを隠してもらって、手札から誰がババを持ってたか当てるというもの。

これがかなり不思議な原理で、原理がうまいこと手順に仕上げられてます。
確かに普通にババ抜きをしてもらえるわけではなく、ちょっと説明がいるルールの中でやってもらわないかんので、馴染み深いゲームなだけにそこが引っかからんでもないですが、選択肢の自由度は高いので近いところに辿り着いても最後まではいけない類のヤバさがあります。

Strawberry on the Shortcake

ショートケーキのイチゴをいつ食べるかというのを題材にしたカードマジック。
手順の流れとしても綺麗ですし、話選びも絶妙ですね。
なんかの話に乗っける手品は、その話自体が普通に世間話として成立するかどうかというのが大事だと思ってて、派閥の話でも揉め事にならないどうでもいい話題を膨らませていくこの手順の流れは理想的じゃないでしょうか。

んなわけで、おまけ含めてめちゃくちゃ面白い本です。
Collecting the Cards 、Fixed Match 、Flash Match 、Fault and Faintあたりが特に好きでどれも甲乙つけがたい感じ。
Matching the Cardsというエンディング勝負のテーマを考え続けた結果なのか、どれもオチによりインパクトをもたらすものになっていて、コンセプチュアルな本であることの意味も感じられます。
他の手品との組み合わせであっても最終的にはMatching the Cards的な余韻が残るので、まだまだ開拓の余地もありそうです。
手法的にも色んなものが使えることが示されていますし、クラシックの再発見としても優れてる一冊だと思います。

この本絶版なのでウヒヒウヒヒと自慢するだけのつもりだったのですが、電子版が存在することを知ってしまいそうもいかなくなりました。
数行ごとに入れていた「ま、もう手に入らないんですけどね」という文章を消してリンク貼っときます。

果無園 on Gumroad

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です