エリックミードが2006年に出したTangled Webの日本語版。
東京堂出版から出てる本の中では手順少なめエッセイ多めの作りで、通して読んで手順に納得できる感じの本です。
エリックミードはセレブに選ばれるマジシャンだそうで、その面子もジェフベゾズ(AmazonのCEO)、マイケルアイズナー(元ディズニーの偉い人)、マイケルダグラス(役者 フォーリングダウン等)、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ(役者 シカゴ等)、ケビンコスナー(役者 アンタッチャブル等)、ジャックニコルソン(シャイニング)となかなかいかついです。
マイケルダグラスとキャサリン・ゼタ・ジョーンズは夫婦なのですが、キャサリンさんはフーディニの映画とか出てるし手品がお好きなのですかね。
オン・ザ・ムーブ
観客に近付く方法からマジックという「芸術」についてまで。
手順はコイントランスポジションとボトルプロダクションの2つ解説されています。
ボトルプロダクションは角度には弱いですが、ジャケットを着てなくても演じられるもので、コインじゃなく鳥の小物を使うのも面白いところ。
小物の面白さが導入には最適ですし、ロードも楽になります。
コインのトランスポジションは観客の手の中で起こるタイプで、セリフによる誘導とライター使いで極限まで難易度を下げています。
うまくできればオープニングにはこういうものが一番良いかもしれません。
バニッシュから入って、そこからリアクション良いお客さんに協力してもらえるってのも強いです。
パーティで観客に接触する方法は、要はまず先に友達になれという話で、それができたら苦労せんわという気もしますが、生まれつきどうしようもないコミュニケーション能力というものを頑張って埋めようとしてくれています。
完璧に実践できるかどうかは別にしても、知らないと知ってるじゃだいぶ変わってくるもんなんで、読んだだけでお守りみたいな効果はありそうです。
プロ向きの内容ですが、手品をただのパズルにしないための演技論は手品好きなら考えておきたいところですね。
まあどんなに完璧にやっても好きじゃない人は別に見たくないので、手品の面白さがわからん人はかわいそうみたいな文章はどうかと思います。
その人は他に好きなことがあるぐらいの話だと思いますが、それぐらいまで演技を高めろってことでしょうかね。
近くの警告
ここで解説されてる3手順はどれも面白いです。
「バーフライト」は3枚のコインアクロスで、3枚目はナプキンの下に移動します。
3枚のコインがナプキンの中から消えて別の場所から出てくるおまけ展開も解説されてて、即興的な手品でありながらガッツリ仕込んでるのはかなり好きな感じです。
「3ピース・コンボ」は4枚のエースをシャッフルしながら取り出し、またバラバラに戻してバラバラに混ぜて取り出し、デックを見ると赤と黒に分かれてるという手順。
バラバラに戻してから取り出しても順番が混ざってないってのはマニアが見ても不思議なところで、操作も思ったよりゴテゴテしてなくて良いですね。
まあシャッフルのクウォリティ次第みたいなとこもあるんですけど、赤黒じゃなくてフルオーダーでもできるのでやってみたい感じあります。
A〜Kまで出して他のマークも揃ってましたーってやつは混ぜたように見せかけて混ぜてなかったと思われそうな気がするので、A4枚出しの方がフォールスシャッフル的な想像をされにくいと思ってます。
「チェンジ」はお客さんから小銭を何枚か借りて、その中の一つにペンで印をつけ、小銭入れに戻します。
その中から見ずに印付きのコインを取り出しますが、小銭入れの中を見ると全部に印ついてるという現象。
手法的には面白いので、もうちょい間接的に使った方がという気がしないでもないですが、お客さんから小銭を借りれるならインパクトは強いです。
まあいくらかよくわからん小銭を演者の財布に入れられたら普通はストレスですし、用意した小銭だと現象弱まるし微妙っちゃ微妙です。
一応アフターフォローの解説はあるんですが、後で無事に返ってくるとかいうのはこっちの話で、いかに観客に負担を与えることなく物を借りるかみたいな話はこの感じの本ならもう少し詳しく書かれててもよかったかも。
治安紊乱行為
メモライズデックについてです。
治安紊乱なんて物騒な章題がついてるのは、メモライズデックをいかに混ぜてるように見せるかということについて書かれてるからで、フォールスシャッフルの効果的な使い方から、本当に一部混ぜて手順の中で復活させていく方法などが解説されています。
確かに下手にフォールスシャッフルして気配出すより、何か一つ手品やった方が気配なくて良いです。
混ぜなくてもカードは動くので、それをあらかじめ計算できていればその通りに狂わせておけば操作感なくメモライズを維持できます。
解ここで説されてる紊乱手順は、その後にやるメモライズデックでやる現象を邪魔しない感じのもので、正当化という意味では完全です。
エリックミードさんはタマリッツの影響濃そうだからネモニカ使ってんのかなと思ってましたがアロンソンユーザーだそう。
ジャズの楽譜とお気に入りのフレーズ
バーノンの”Trick That Cannot Be Explained”(説明できないトリック)について。
これはエキヴォックを使うトリックで、エキヴォックと思わせないすんごい偶然を演出するマジックです。
ここで解説されるのは台本に沿ってただカードを減らしていく手順ではなく、アドリブでラッキーパターンを量産していくという考え方。
人前でスムーズにやろうと思うとかなり練習が必要だとは思いますが、こういう図々しい逞しさは見習いたいものです。
不自然にならない範囲で観客に選択をさせていって、大当たりが来たらドーーンみたいな。
ドーーン来ても冷静にドーーンする演技力はかなり難易度高そう。ニヤニヤ厳禁。
ギャップを埋める
よりプロ向けの考え方や手順が解説される最終章。
マジックとマジックの繋ぎ目の話「移行について」は最近ダニダオルティスの本でも読んだので、読み比べると面白いです。
スタイルは違っても本質は変わらず、テンションを下げず興味を持続させるための話です。
「52・オン・ワン・トゥー・ワン」はサロン向けの手順で、カードを予言してましたーって言ってカードが52枚貼りついた紙を出してきます。
振ると選ばれたカード以外が剥がれて、選ばれたカードだけが絵になってるというクライマックス。
フォースとしか考えられないような予言ではなく、バラバラ落とすフェイズがあってからのオチなのが良いですね。
サクラの使い方も紹介されていて、サクラに自分がサクラと思わせない方法なのであんまり後ろめたくない感じです。
オリジナリティについての考え方や、自己紹介の方法などはマジック関係なくても面白い話で、このあたりの観客目線がエリックミードの強みなのかなと思います。
TEDに出た時のこれ見ればなんとなくわかってもらえるかと思いますが、まあ強いですわ。
プラシーボ効果といういかにもTED的なテーマに沿って簡単なマジックの種明かしをして、その延長線上にあるようで全く別物のキモビジュアルを見せて、手品なのかなんなのかよーわからん状態で去るというかっこよさ。
あとFool Us出た時のシリンダーコインがめっちゃ不思議。
ペン&テラーを壇上に上げる時の盛り上げからさすがという感じ。
テクニックも申し分なく、安定して徐々に燃える展開に持っていってます。
TEDもFool Usも、普段通りのルーティンをやる人も多いですが、こういう場に合わせた盛り上げ方をできる人はそりゃいろんなとこに呼ばれるだろうなという感じです。
そういうことを考えながら本に載ってる手順とかを読むと、また別の味わいが出てきて、エッセイからエリックミードならこういうシチュエーションでこう演じるってのも理解しやすいんじゃないでしょうか。
たぶん「誰とでも90秒ぐらいで友達になれる」ってジャンプの主人公みたいな属性も本当だと思われます。
パーティに呼ぶならこういう人を呼びたいものですね。
自分はパーティ的なものにすら恐怖を感じる引きこもりなので、それ以前の何かをどうにかするのが先。
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