by jun | 2020/03/01

ラモンリオボーさんによるThinking the Impossibleの続編。
2010年にスペイン語で出てこの度英訳されたようです。日本語版もお祈りしましょう。

Thinking the Impossibleから彼のこだわりというかクセというか、そういうのが強くなってる印象を受けました。
それはどこに行ったかわからんカードが演者の宣言通りに出てきたり、ランダムにしか見えない状況が予言されてたりというもので、Thinking the Impossibleでは言葉巧みにそういう状況を演出していたものが多かったですが、今回はそれじゃまだ足りんって感じで実際に観客に好きなようにやらせてそれでも演者が全てをコントロールしています。
そもそもメンタルセレクション(しかも複数人)の手順が多く、言葉巧みの使い方もちょっとシフトしてるような感じがありました。
文章で読むとぐちゃぐちゃを演出する操作が長く感じたり、大将ちょっと塩がきつすぎませんかねーって思ったのもあるんですが、観客の立場で見てみるとあり得ない状況を自ら作っていく感じでまあ追い込みが凄いです。
原理の使い方やチョイスは引き続きおもろくて、でもあまり原理に依存しすぎないというか、そもそもが弱い原理を何か別の原理と組み合わせたり演出で説得力を出していく感じなので露見し辛くなってます。
技法自体の精度に頼った手順は少ないですが、全体的に演じる難易度は高くなっていて、細かい演じ方の記述もThinking the Impossibleよりあっさり目なので、未読の方は素敵な日本語版が出てるのでそっちを先に読んでおいた方が良いです。

An Adjusted Prediction

予言トリックです。
複数の観客に数字を言ってもらって合計の枚数を数えてAdjustedした場所のカードが予言されてます。予言とAdjustedの仕方がとても賢く、観客が言う数字も自由でバッドエンドがありません。
いきなり素晴らしいですね。
突然そういう設定が出てくるともやっとするけど、先にこれはこういうもんだと言っておくことで予言としての効果も高まってるし、良い感じに手品。上手い。
日本語だとなんかうまくハマる言葉がありそう。

Klondike Poker

ポーカーの手札の中から一つ選んでもらって中から1枚覚えてもらう。どこに行ったかわからん感じに混ぜるけど当たる。
ちょっとストップトリック的な遊びがあったり当り方も面白いのですが、逆にそこら辺の操作の意味がわからん感じもなくはないです。
しかしこれ系の本当にどこに行ったかわからないように見えるやつは本当不思議に見えますね。

Impossible Dribble

ドリブルした合計枚数目のカードが予言されてます。
ノーブレイクノーフォース。
原理に当たり前感が出そうなところ、上手いこと手順が組み立てられてる感じがあります。

Shy or Showoff

4枚の中から1枚覚えてもらい、それなりに自由に操作してもらうと、覚えたのだけが反対向きにひっくり返ってる現象です。
文で読むと指示が具体的なように見えますが、手動かしてみると結構好きに動かせるので不思議かなと。
何人相手にも出来ますが、どうやってもそうなる感が出そうなので一人に演じるのが良いと思います。
ちょっと考えないといけないところはあるけどホフシンザーエースに使えそう。

Nuclear Weapons

物騒なタイトルが付いていますが、筋立てが妙に生々しくブラックなオチが付く手品です。
手品の設定的にはボードゲームとかにもありそうな感じで飲み込みやすく、興味を引くものだと思います。
現象は世界平和。
使い道がありそうでない原理を設定で上手く手品にするのはThinking the Impossibleでもやってましたが、この本ではこれが一番ハマってたように思います。

The Twenty-first and Whatever

ストップトリック系の作品です。
手法だけ取り出すとほーほーってぐらいの感じですが、全体の流れが良くできていて、観客の選択が重要であったことを強調できるようになってます。

Signed Card from Packet to Packet

サインカードが移動するカードアクロス。
まだ人に見せてないのでなんとも言えない部分もありますが、さりげないサトルティの積み方がとても好みです。
あざとすぎず、観客が頭で補完するから偽の印象に残りやすいという構造が上手くできてると思います。
少なくともワンデック即興で行えるこの手の現象としてこれ以上のは知らないです。

The Whispering Card

色々操作してもらってからスペリングすると覚えてもらったカードが出てきます。
やや混乱させ寄りという気はしますが、自由で演者が知り得ない情報が積み重なるので不思議。
このトリックもスペリングの使い方が巧みで、こういう元からランダム性高いものにスペリング組み合わせると本当気持ち悪く感じます。

Heart and Fortune

2人の観客に行う自由に思ったカードを当てる手順。
お決まりの作法があるものの、マニア目線で解説読んでもその方法で行けるのかーという感じがあるので、特定は不可能に思えます。
釣る時のセリフもめっちゃ良いですこれ。

Saint Rita and the Zodiac

現象的にはぐちゃぐちゃにしてスペリングすると出てくる系のトリックですが、ストーリーに合わせたものになってます。
この周辺似たような感じの作品が続きますけども、見せ方の違いで印象がガラっと変わるのがおもろいですね。
これは言語や文化の違いもあってそのままだと演じられませんが、ワードを先に言っておけるので日本語でも不思議さは出せます。

Card That Manifest Themselves

複数枚を選んでもらうトライアンフ的な手順。
複数枚選んでもらうのはその必要がある手法を使うのですが、その手法以外のところで複数枚でやる難しさが出てるのが上手いです。

Fair Value

古典的な数理トリックのリオボーバージョン。
元々がとても巧妙なトリックですが、少しの工夫と狡さで数理感は更に減ります。
このあたりの数理っぽい作業をさせつつもそれだけではどうしようもない感じにする手腕はやっぱり凄いです。

21st Century 21 Card Trick

21カードトリックをフルデックで観客が指定したパケットの数で行います。
上手くショートカットできてるところがいくつもあり、それほど長く感じずデック全体から演者には絶対どこにあるかわからないように選んだように見えます。

More Piles and Total Freedom

上の21カードトリック風のやつをより狡くスマートにしたような手順。
まあそこに行き着くよなーという感じでごっそりいってます。
なんかこういうのって、それだったら数理的な面白さが無くなってるやんて言いたくなる人もいると思うんですが、不思議さで黙らせる感じがとても良いですね。

Free Cut, Spell and Reinhard

3枚のカード当て。
タイトル通りの原理を使いますが、パケットの作り方から操作のさせ方まで読みどころ多いです。
このトリックで急にビジュアルな出現をやっていているのですが、真ん中に戻してコントロールしてシュッより、本当にどこ行ったかわからない感じからのシュッは威力高いなと思います。

The Prophecy the Absent Magician

ミラスキルみたいな枚数の予言が出来る手品。
予言の文言が見所です。
手法は3つ紹介されていまして、シンプルなものでも予言の面白さの引きで持っていけそうな感じあります。

Controlling Chaos

Shuffle Borad的な裏表ぐちゃぐちゃに混ぜたやつの内訳を当てる手品。
ちょっと意外な解決法で、確かにそうしておけばランダム性は上がるなという感じです。
この本の中で多く使われてる技法をここでも使っていますが、この手品にこの見せ方が合ってるかどうかはちょっとよくわからん感じでした。

Mysterious Divination

セットは必要ながらかなり不可能性の高いカード当て。
ノーセットのパートで同じようなのがあるのでこのセットをどう取るかが分かれ目ですが、どうせやるならこれという感じでしょうか。
セットのチャプターはセットによってそれをどう隠すかの違いも読みどころの一つ。

Same Number for Three

3人の観客に行うメンタルセレクション。
ちょっと覚えないといけないことが多くて大変なのですが、これはかなり気に入りました。
それまだそういう使い方があったかというのもあるし、軽いハンドリングで3人にバラバラの位置のカードを見せつつコントロールできてるのも見事。

Grand Telepathy for Five

こちらは5人の観客のカードを当てる手順。
Thinking the Impossibleで同じテーマの作品があり、それはそれでまあ素晴らしい手順でした。
今回のこれはある意味とても彼らしい作品で、とても賢くずるをしています。
原案含めいくつかのバリエーションを知っていますが、観客にどういう印象を持って欲しいか、何を隠したいかということを考えるとこの方法が最強かもしれません。

Double Allerton

ストップトリックっぽい予言現象です。
これよくある形とちょっと違ってて、ウルトララッキーパターンを狙いやすい感じになってるのが良いです。

Divination through Another’s Touch

シャッフルしてもらってから行う超不可能なカード当て。
超不可能なんですが、それやったらなんでもアリという状況から起こす現象のさじ加減が絶妙。

A Magic Card and a Magic Number

ナンバートリック系の現象。
普通のやつとはカードの戻し方が違って、そこのフリーチョイス性のおかげでわけわからなくなります。
実際演じること考えるとちょっと怖い部分があるギリのバランスなのですが、それだけに決まると超不思議。

Divine and Locate

2枚のカード当て。
2枚とも当て方も特定方法も違うのですが、この分け方がとてもクレバーで、追いにくいのもあるし本当にわかってないものを自信を持って当てられるというか、不思議リアリティが出ます。

The Bad-Luck Card

1枚だけ仲間外れのカードを引いてしまうというトリック。
手法はこの本の中で見ると可愛げがあるものですが、追い込みの一工夫がさすがというあたりです。

A Taste for the Ladies

面白い原理を使った4枚のQ出し。
ある方法で4桁の数字を決めて、その数字の分ずつ4つのパケットに配ると下からQが出てきます。
どうしてもうまくいかないところのために演出とセリフが組まれていて、そこは好みが分かれるところかと思いますがこの原理は知っておいて損ないかと思います。

Back-Color Transposition

2枚の色違いのカードの裏の色が入れ替わるという現象。
解説されてる技法の使用例的な手順です。
入れ替わるところ自体は技法が上手くいけば鮮やかですが、直前のハンドリングをどれだけ軽く見せられるか勝負って感じでしょうか。

Impossible Prediction

色違いのカードを使った予言。
ちょっとこれは技法のクウォリティ勝負になってくるものでなんとも言えない感じはあります。
手続きとしても理由が付けづらいところがあり、まあその辺はあらゆる予言手品がそうだとも言えますし、選ばせるところのフェアさは強調できるようにはなっているのですが。

I Always Miss, So I Never Miss

これ先に原理の解説があってこんなもん何に使えるんやと思ってたのですが、まあ面白い手品になっていました。
現象自体が面白いのでそこは伏せておきますが、考えば考えるほど不可能性が高く見える手品で、この原理以外の解法もありそうでない。

Mr. Galasso and the Bkack Hole

観客がポケットに入れたカードを見つけるためのカードをある手続きによって決めてカードが当たり、別のデックを見るとカードを見つけるためのカードと観客がポケットに入れたカードが隣同士になってるというなんとも変な現象です。
手続きの部分が肝ですが、ここで観客の選択の自由さが発揮されてオチに繋がるので結構気持ち悪いです。
なんじゃこれと思ってましたけど、徐々にカードを減らしていく系の手品としては結構ありな気がしてきてます。

Touch and Telepathy

凄いカード当て。
観客から後ろ向きでカードを受け取り、何枚かカードを抜き出すと当てれます。
原理系では一番面白かったかもしれません。
しかしちょっと人に見せる気にはならんかなという第一印象でしたが、適当な演出考えるのが楽しそうではあります。

The Roulette Deck

ルーレットをテーマにしたカードマジック。
題材の良さ、演出、手法、現象、全てにおいて完璧な手品だと思います。
原理だけ知っていましたが、解説を読むと本当に良くできてることがわかって感動しました。
別けても演出がめちゃくちゃ良くて、この現象の見せ方としてはこれ以上はないんじゃないでしょうか。
少し現象が落ちる場合もあるのですが、示す前にセリフでどうにでもできる範囲です。

Swindle Deal Three

3人に対するメンタルセレクションで、色々なパターンがあるわけですが、この人のこれ系極端なバッドエンドがないのが本当に凄いですね。
原理がこう、数理的というかこの場合はこういうことにしかならないみたいというのがあって、それ自体はだからどうしたということでも現象に活かすアイデア力半端ないと思います。

The Stapled Card, without Jokers

Thinking the Impossibleに解説されてたホチキスで止めたカードのセットを楽にしてハンドリングをよりシンプルにという作品。
やや負担はありますが、技法の割に負担を感じにくいような使い方なのであまりストレスはありません。
シンプルさゆえに説得力が後退している部分はさすがに感じますが、変えてるのはハンドリングだけじゃないので全体として見て現象が弱くはなってないと思います。

Two Cards and Two Envelopes

演者が先に封筒にカードを入れ、観客にカードを選んでもらいもう一つの封筒に入れる。お互いのカードを出すとメイトになってます。
封筒のカードをあれするハンドリングは楽で説得力もあって良いですね。
なぜ封筒に入れるのかという演出の部分もしっかりしていて、封筒も仕掛けなしのものなので演じやすそうです。

Black Widows

サンドイッチカードです。
原理自体は新しいものではありませんが、見せ方が凝っていてサンドイッチカードを見た時の感触としてはかなり斬新なものではないでしょうか。
その見せ方のおかげで手法も隠せていて、不思議だけが残ります。

Prophecy, Value and Suit

観客が選ぶ数字とマークを予言する手品。
手品の基本原理を使って、いかに観客が自由に選んだものを予言できるかということに挑戦したような手品です。
完全に自由に言ったものがあたるので半分は上手くいってますが、逆にもう半分は何故そういう選ばせ方をしたのかというのが気になるあたりでしょうか。
その部分にも工夫はされてはいますし、自由に言った方を強調できる構成ではあります。

A Quick Trip

赤裏のカードの中から1枚選んでもらい、青裏のデックを見ると1枚の赤いカード。それが選ばれたカードで、赤裏の方を見ると選んだカードが消えています。
ブレインウェーブ的な予言ではなく、確かにカードが移動したという見せ方で、手順の中で比較的楽に直接的な技法をカバーできる流れになってます。

Double Magic Trip

赤裏の中から青裏の中にカードが移動する現象。カードアクロスというか、2つのデックを輪ゴムで止めて袋の中に入れてしゃかしゃかすると移動します。
サインをしてもらえるのですが、そのサインをしてもらうところがポイントで、ストレスな状況をさっさと終わらせてエンドクリーンに向かえるようになってます。
賢い。
いくつかあったカードアクロス系どれも面白かったです。

Out of Touch

某ムーブについて、色々な可能性を示しています。

Premonition and Divination

青裏から選んだカードと赤裏から選んだカードの一致現象。
この本の中で一番なんでもアリになってる手順で、シンプルな現象をクリーンに見せられるようになってます。
レギュラー以外の手順ではこの見せかけのクリーンさを作る手腕が光っていましたが、この手順が最たるものでしょう。
凄いです。

Guaranteed Premonition

上のやつをちょっと楽にしたような感じのトリックです。
予言のカードをすり替えられないようにサインをしてもらえるのですが、こういう観客をその場だけ満足させるような狡さが最高でした。

どの手順もその手法を狡く隠す工夫がされていて、それぞれに特化してる故に汎用性は低いかもしれませんが、これだけの量浴びれば考え方自体は何か身につく気がします。
演技力が必要なのでやってみたら楽しそうという作品が多く、演じるごとに何かそこらへんの感覚も養えそうです。

ここ数年どこかで演じるかもしれない手品はシチュエーション別にカテゴリー分けしていて、例えば「1分以内に終わって受けが良さそうなビジュアルな手品」とか「地味だけど手品する人に見せる用の手品」とかで、この本の多くの作品はマニアをどうにかしたい枠に分類されました。
他にも「初めて結婚相手の実家に挨拶に行ってご両親のどちらかが手品マニアで、君もマジックが好きなのか何か見せてくれたまえと言われた時に見せられる手品」という枠があり、要は場所や相手を選ばず誰が見ても不思議でしっかり面白く見せれる手品ってことでなかなかここに入る手品はないのですが、この本からは2つの作品が入りました。
これはまあ好みでお前のそんなん知らんわって話ですけども、面白さという意味においてはこんな手品他ではなかなか読めないというのもありますし、あんまりマニアックな所に引かずに読んでみるのも悪くないとは思います。

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