by jun | 2020/10/10

2016年にHermetic Pressから出たロベルトジョビーの本。
スクリーンと音響と照明演出を使わないステージやパーラー向けのカードマジック周りのことが解説されています。
大人数向けにはカード以外の適した手品があるというのはそれはそれで一つの正論ですが、それでもカードをやりたいしやりたいという人のために書かれた一冊です。
立って演技する用にチューニングされた技法や手品の見せ方が解説されているので、大人数相手になんかやることになったけどカードしかできないしなーという消極的な理由でカードをやっていた人が自信を持ってカード手品を選択できるような内容になってます。
クロースアップでも使えるアイデアなんかも多いしまあロベルトジョビーなんで、カードやってる人ならなんかしら持って帰れる本だと思います。

Chapter 1: The Standup Card Conjurer

定義や歴史の話から会場のセッティングなど実務的な内容、どういうトリックを演じるべきかということまで、トリック以前の話が最初の章でされています。
パーラーでの椅子の配置の仕方や主催者に確認すること、会場によって立つ位置を決める話なんかは抑えておきたいところ。より良くするというかこれをやるだけで不幸がかなり減ると思います。
どういうトリックを演じるべきかというところは一般論でよく言われることではありますが、この本で解説されてるトリックは必ずしもこの条件に当てはまってるわけではないですし、演目を考える時にステージだとより気を使うべきという感じでしょうか。

ステージでのカードの示し方についてもここで解説されています。
レギュラーデックであることを伝える方法、ジャンボインデックスを使うべきかどうか、テーブル上に水平にカードを立てるアイデア集とか色々と。
あとタマリッツのShadow Ruleというのが紹介されてて、これはよりわかりやすく効果的に現象を示すためのセオリーです。ステージやる人だと当然のことなのかもしんないですけど、これは結構差が出る気がします。クロースアップでもある種の現象では効果的に働きそう。

Chapter 2: Spectator Management

観客をステージに上げることについて。
お前らはタマリッツやダレンブラウンではなく観客が喜んで前に出てくれるわけではないのだからちゃんと工夫すべきというようなことが書いています。
どのタイミングでどういう観客を選び、ステージ上でどうフォローしてどう客席に戻すかまで。
それぞれ例としてセリフなんかが解説されてますが、気を使うというよりは観客をちゃんと一人の人間として見なさいというメッセージです。
客席の観客はみんなステージ上の観客を見るわけですから、ステージ上にいるのがカードを1枚引くためだけに呼ばれて以降所在なさげにしている人と、これから近くで何を体験できるのかと演者に関心を示し続けてる人では観客が持つ印象にも大きく影響してきます。
難しいし経験も必要にはなってくることですけど、気をつけるべきポイントごとにどういうことを考えるべきかというのがわかるので最低限のスタートラインには立たせてくれます。手順を考える時に何回でも読み直すべき内容です。

Chapter 3: Card Technique for the Standup Performer

スタンドアップで行うテクニック編。
カードの基本的な技法解説も多いですが、ステージだからこそ通用する感じのもあったりします。

False Shuffles

オーバーハンド系からリフル系までいくつか解説されてます。
ここはまあステージだからどうという話は少なく、逆にいうとクロースアップでも使えるものが漫勉なく解説されてるのでお得。
一個膝を使って揃えるのがありますが、あまり見栄えのいいものではありません。
オーバーハンドシャッフル系は基本的にやることは変わらず、体を使って錯覚を強めるような方法が解説されています。

Card Control

コントロール色々。
The Parallel Shiftというクロースアップではきつそうなパス系の技法が変わってますが、あえてこれじゃないといけないということもないと思うのでまあまあという感じ。
あとは基礎技法のバリエーションという感じでそんなに変わったものはありません。
ファンで差し込んでからマルチプルシフトの動きは綺麗でした。

Force

ここはステージならではという感じで面白いです。
簡単にクラシックフォースをする方法や、ヒンズーシャッフルのさりげないサトルティなどなど。
特によかったのはクロスカット的なやつのステージ版。クロスさせずに何かを有耶無耶にする感じが楽しいです。

Palming

技法的にはクロースアップと同様のものを使いますが、写真が上半身全体移ってたり、こっちの角度を意識するとフラッシュしないよという話があったり、スタンドアップ用の解説が良かったです。
どっちかというと立ってると上下の角度の方が気になるのでそのあたりも詳しくお願いしたかったですけど、写真も多いんでこの時こっち向けてたら大丈夫という感じを掴むことはできます。

The Top Change

トップチェンジに限らずスイッチ技法がいくつか。
ダブルで戻す時にデックとの接触感がないように見える方法や、ボトムディールなど、スタンドアップで演技するなら覚えておきたいものが結構ありました。
ワイングラスがあると便利というのはクロースアップでも共通するあたりでしょうか。
ビドルグリップでやるやつも、全身の流れでみると結構良い感じな気がしました。

Chapter4 : Performance Pieces for the Standup Magician

手順が13個解説されています。
完全即興〜ちょっとした準備のやつと、道具が結構いるやつが半々ぐらいでバランス良いです。
全体的にセリフが良くできていて、不思議なことが起こってなくても間が怖いというようなことがほとんどないと思います。
13手順のチョイスは謎っちゃ謎ですけど、あまり難しい顔して演じなくていいのと、観客体感型かつ見栄えがするようなのが選ばれてる気がします。

Card Call

シャッフルしたデックの中から数枚のカードを観客に取ってもらい、それを1枚ずつ当てていきます。

当てていく方法が観客がパケットの中から思ったカードを読み取る感じになっていて、セリフが上手くはまれば結構気持ち悪そうな感じ。
最後に残った1枚は予言されていて、その見せ方もユニークでおもろい。
カードを選んでもらう部分はかなりシンプルな手法が使われていますが、全体のセリフの構成が肝なので当てる枚数とか含めてそこらへんは自分好みのやり方にできます。

And Yet It Is!

手法的にもシンプルなカード当てですが、ステージに上がってもらった観客と他の観客に違う印象を与えることができます。
かといって誰かが全く不思議に見えないようになってるわけでもなく、お互いにとってちゃんと盛り上がるようなセリフ回しが良いです。要はサカートリックなのですが、失敗したと見せかけて実はーという予定調和感を出すことなく意外性だけを強調できる作りになってます。
やることはとても単純で、そこそこの人数いるシチュエーションで場を持たせられるものなので覚えておきたい一作。

The Fool’s Metamorphosis

Vanni Bossi作のトランスポジション現象。
ワイングラスの中と底で見せるあれで、現象の示し方がドラマチックでおしゃれ。
前段にコールカードがトップに上がってくる現象があり、ワイングラスに何かあるのではないかという気がしてくる感じが良いです。
カードの選ばせ方が面白く、観客がカードを言ってから何もしてないのにトップに上がってきたように見せる方法が忘れてはいけないのでコーナーじっくり解説されてます。こういうのもステージでの観客とのコミュニケーションならではという感じでおもろいっすね。

Vice Versa

2人の観客にカードを覚えてもらい当てる。2枚は当たるもどっちがどっちのカードを選んだかは外してしまい、それが観客の手の中で入れ替わるという手品。
あんまりステージ向きということもなく、そんなに変わったこともしませんが、なんとなくステージ上の二人の観客が持ってるカードが入れ替わると派手なことが起こったように見える感じでしょうか。
別のカードを渡す時にセリフで説得力を持たせるあたりが渋いです。
マルローとかの地味テクニックを知れるのはジョビー本の魅力。

A Comedy of Errors

観客が選んだカードと同じ数字のカードを取り出していくと言い、3枚のQを取り出す。観客が選んだカードを見るとAで、Qだと思ってたカードを見ると4に変わっていて、Aも4に変わってる。Qはバラバラのポケットから1枚ずつ現れるというちょっと捻りが強い手順です。
現象だけ見るとあっちゃこっちゃ行ってややこしく感じますが、変わってることが明らかだしコミカルな調子でうまく乗せると楽しそう。
グラスとお札を使った見せ方が面白く、ポケットから出てくるところも良い感じにバランスを取っていて、ステージでやるならこういうのやりたいなーというのを比較的低負担でできるようになってます。

Prediction at Risk

まず観客に4枚の封筒の中から1枚選んでもらう。赤青2つのデックを使い、演者が選ぶカードと観客が選ぶカードが一致する。封筒を開けるとそのカードが予言されていて、他の封筒を見るとお金が入ってる。

カードの一致のハンドリングとても良いですね。一般的なDo as I Doよりすっきりしています。ゴミ処理が綺麗。
まあなんでいちいち交換するのかとかいう話はありますし、テーブルにスプレッドして見せるのであまり大人数向けではないのですが、絵面のパワーでなんか凄いことが起きた感が残る素敵手順ではないでしょうか。
封筒の予言のはやりすぎっちゃやりすぎですけど、他の封筒からお金が出てくるという複雑な気持ちになる余韻が結構好き。

The Three Roses

青いデックの中に1枚だけ赤いカードを入れておき、観客にカードを1枚決めてもらい、そのカードの裏を見ると赤いカードでした。

タイトルは3本のバラを受け取った観客にカードを決めてもらうから。サクラを疑われずに済むというのもあるし、じっくり時間をかける見せ方が合ってるトリックです。
手法もとても良いです。遠目にもわかりやすい現象ですし観客をステージにあげなくていいのでステージなら衒いなくこういうことをやっていきたい。デックはノーセットで良くて、好きなタイミングで演じられるのも強み。めっちゃ良いと思いますこれ。

Hofzinser’s Triple Prediction

3枚のカードをハンカチにくるんで観客に持っていてもらい、デックから3枚のカードを選んでそれぞれサインしてデックに戻す。ハンカチにくるんでる3枚を見ると…

大枠を見るとなんということはないのですが、演出と丁寧なハンドリングでかなりそれっぽく見えます。
見せ方として、最初は予言のマジックであるように見せるのが効いていて、デックとカードの接近をほぼ気にならないようにしている構成。

The Devil’s Messenger

3枚のカードにサインをし、デックに戻す。突如会場に配達員さんが地獄からの郵便を届けに来て、中を見るとサインカードが入ってる。

Hofzinser’s Triple Predictionよりも大胆な手法が取られていて、やや強すぎる印象もあるのですが、わざわざメッセンジャーを用意したり面白展開が続くので、笑いながらもまさかというドキドキがあります。
サインカードを扱うにあたっての観客の使い方とかも面白いし、最後の大仕事の前に十分説得力を持たせる作りです。

Swiss Poker

観客にカードを言ってもらってからタバコを一本選んでもらうと、そのタバコの中から観客のカードが出てくる手品。

諸々の制約上完全にフリーチョイスではないのですが、そのための特殊なゲームの設定はなかなか面白く、カードインタバコギミックの作り方も有用です。
カードよりタバコの方がスイッチと処理が楽というシチュエーションも多いですし、何かに使えそうな感じはします。

Card in Lemon

ハンカチの中でデックがレモンになるやつ。

これは色んなやり方がありますが、ハンドリング的にあんまり怖いところがない方法だと思います。サロン以上の規模だとほぼストレスなくできるんじゃないでしょうか。
ジョークによるオフビートの作り方も上手いし、そのセリフがデックの存在を意識させるようにもなっていたり脚本も巧みです。

Napoleon’s Game

観客3人に5枚ずつカードを配り、3人でハイカードバトルの変形みたいなゲームをやってもらいますが、演者はそれぞれの観客がどういう手札かわかってるかのように指示を出していきます。

まず、カードゲームのことを知らなくても観客が負い目を感じる必要がないということで変なゲームをやるとのことですが、新しいゲームの説明をしなくてはいけないのはそれはそれでデメリットも多いです。実際ちょっとややこしいゲームではありますし、パフォーマンスがかなり難しそうなトリックではあります。
手札のうちわけがわかってるという現象自体はわかりやすく、一番弱い手札を持ってる人を助けるという演出は面白いですし、手札を配るといってもテーブル上ではなく観客が手に持ってカードを示すので、カードが視認できる規模であれば演技可能です。
最初にデックを観客全員にシャッフルしてもらえて、つまりはそういうことをするわけですが、このステージ用のやり方はとても良いものでした。

Stickler

カードをテーブルにぐちゃぐちゃに広げて新聞紙をかぶせ、その上からナイフを刺すと観客のカードをしとめることができます。
全編に笑いが仕込まれてる手順です。絵面だけで笑わせるようなものも多く、この男ノリノリであるという感じがします。
新聞紙の他にベニヤ板とかも必要ですが、仕掛けも手順も良く出来ていて、不思議で見栄えのするカード当てとしてはとてもいいのではないでしょうか。

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