by jun | 2020/10/01


2001年に出たサイモンアロンソン本です。
最近になって古いのから順に読み始めたわけですが、どれもこれも面白くて周囲にサイモンアロンソンこそ!サイモンアロンソンこそ!と言い散らかすぐらいハマってます。
ちゃんと読む前はなんとなくマニアックな原理とメモライズドの人というイメージしかなかったんですけど、見せ方の面白さはどの作品でも光っていて、ただセリフが面白いというより手法とマッチさせるのが上手い人です。
本としては解説後コメントの充実ぶりがいつも凄くて、一つのアイデアを骨の髄までしゃぶりつくしてる感じがあり、その意味でいうとこの本はUnDo Influenceとアロンソンスタックで一章ずつ使っていて、莫大な知識量から何かを発展させる様子が楽しめます。
一つ一つの質も非常に高いカードマジックが多数解説されていました。

UnDo Influence

最初のチャプターはまるごとあの原理を取り扱っています。
ある操作をすると観客が覚えた2枚のカードを特定の枚数目にコントロールできるというもので、観客がやることはカットしてボトムカードを覚えて元に戻すだけ。演者がすることも現象の中での必然性があり、不自然に見えず覚えることも特にないので非常に便利な原理です。
ある程度制限はあるし現象も限られてはきますが、応用となるトリックが考えうる限り解説されています。
だいたいの原理を知ってても十分読む価値がありました。現象のバリーションというだけでなく演出のアプローチもとにかく素晴らしいです。

最初に解説されてる”Prior Commitment”は有名ですね。2人の観客が覚えたカードの枚数目が予言されているというあれ。
一つだけしなくてはいけない作業の動機付け説得力も強く、原理パワーをシンプルに活かした名作です。

枚数目のコントロールなのでスペリングとの相性も良く演出も決まってる”Queenspell”や、タンタライザーと組み合わせた”Divide and Conquer”、”Euph-oracle”もコントロール感がないのでとても不思議に見えます。特にDivide and Conquerはセリフも含めてとても気に入りました。シンプルな操作からの2枚残しはめっちゃ不思議。

当然カードアットエニーナンバーあたりとも相性がいいわけですが、”Twice as Hard”というのがとにかく凄くて、サイモンアロンソン以外の誰がこんなことを思いつくのだという一作になってます。そこそこ負担もあり、”Prior Commitment”がほぼ完成されたトリックなのでそんなことしなくてもーーって気もするんですけど、夢があってとても良いです。

“Worker Bees”も恐ろしい手順で、2枚のカードプラス1枚のメンタルセレクションを当てます。
スペリングを使いますが、前半と後半の現象のリンクが綺麗でスペリングする演出も見事。

個人的お気に入りはコインシデンス的な2枚のカード当て”Random Tandem”。観客に分けてもらえるところが憎いです。

最後のまとめで原理の解説や追加アイデアが載ってます。秘密裏に枚数目がわかってるというだけでなんでもできるなーと。
あと、そういうやり方でもできるのかという方法も載ってるので、まだ新しいことを考えたいという場合に参考になります。

Eccen-tricks

1章がUnDo Influence、3章がアロンソンスタックのトリックですが、ここではそれ以外のものが色々解説されてます。
アロンソンスタックじゃなくても良いメモライズドデックものはここで解説されていて、これはかなりいい感じでした。

Head Over Heels

選ばれたカードを表向きでトップから2枚目にコントロールする技法とその応用。
リバースの技法というよりこうやってこうやったらひっくり返ってここにくるよという話です。
まあ若干カードを選んでもらう時にそれは一体なんだというところもあるのですが、全くなんの意味もなく行われることではありません。
Harapan OngのPrincipiaではここらへんをうまいこと解決したトリックが載ってました。
アロンソンの応用は1枚良い感じのところでひっくり返ってることを利用したもので、シンプルなトランスポジションとか良かったです。

O’Aronson Aces

オーヘンリーの究極版。
特殊なギャフを使いますが、超クリーンに移動したりオーヘンリーしたりします。
これたぶんもう手に入らないのですけど、演技中には気にならないレベルでなら自作可能です。
最後は観客の手の中で4枚のAを出せるし、手順の賢さもあってあんまりギャフを使ってる後ろめたさもないので頑張りましょう。

Nosnora Aces

同じギャフを使ったリバースアセンブリーです。
オーヘンリーより若干地味ですが、ハンドリングの妙は楽しめました。
Elmsley plus Partial Rhumba Countとかいうのは結構使い道ありそうな気がします。
このギャフがあらゆるアセンブリに対応できるというのはここで確認できるようになってる感じです。
ガサツに自作したのでどうかと思いましたけど、アセンブリ系ならそこまで気を使わずに混ぜれるのでルーティン考えてみたくなりました。

Simon’s Flash Speller

カードを言われてスペリングすると何文字になるかを瞬時に判断できる特殊技能を得ることができます。
マルローのやつを読んだことがありましたが、アロンソン版は覚え方をかなりすっきりさせていてかなり楽になってます。
日本語でも同様の考え方でまとめることが可能。

Spell It Out

カードを選んでもらってデックに戻しシャッフル。もう一枚選んでもらって、その場所からそのカードをスペリングすると最初のカードが出てきます。
タイトル通りあらゆるアウトが解説。
Flash Spellerも含めて、説明できないトリック系のことやるにはとても有用な情報です。

Decipher

2枚のカードから1枚のカードを作ってそれがポケットに移動するやつ。
手法は普通なんですが、プレゼンテーションがとても面白いです。
なぜそういう選ばせ方をするのかというのと現象をうまいこと包み込んだコミカルなセリフで関心しました。

Two Deck Canasta

2人の観客に2枚ずつカードを選んでもらって、左右のポケットに入れてもらうと、カードもどっちのポケットにどっちを入れたかも完全に一致する。
2人には別の方法でカードを選んでもらう必要があるものの、2人目にはよりじっくり選択させるような流れで、盛り上げ感的には特におかしくはないです。
アフターコメントでKnowledge vs Coincidenceというコラムがあって、Canastaの元ネタとの現象の見せ方の違いについて語っています。どっちが良いという話ではないですが、観客が持つ印象を変えるなら全体をデザインしなおさないといけないということがよくわかる話です。

Choices

2デックを使い、まず片方のデックからカードを選んでもらってからカットして、そこから3枚のカードを出す。もう片方のデックから3枚の合計数の枚数分配ると、選ばれたカードが出てきます。
タイトルが示す通り、デック、カード、カット、3枚をどう選ぶかというのを全て観客がフリーチョイスで行えます。特に3枚の選び方が変わってて、赤か黒かを決めてカットした場所から決められた色の3枚を使うようになっていて、そこまでやるかという追い込みが楽しいです。
セットがほとんどやってくれるセルフワーキングでめっちゃ不思議だしセリフがいいので盛り上がると思います。

Breathing Spell

2枚のカードのスペリングトリック。
カードを選んで戻してもらうまでは2人の観客がずっとデックを持っていて、自動的に都合の良い場所にコントロールできるようになってます。

Two Beginnings

1人目が言ったカードを2人目の観客が選ぶ。
手法はだいたい想像通りのことですが、かなり簡単にできる計算法が解説されていて有益。フォースもよく知られたものをうまいことやってます。

The Invisible Card

観客にカードを引くふりをしてもらってなんのカードが言ってもらい、デックを見るとそのカードが消えていて、表向きに戻してもらうふりをすると表向きで現れます。
レギュラーデックで行えるこれ系の現象としてはかなり強いです。
手法的にもツールの正しい使い方という感じでとてもしっくりきました。

Oddly Enough

3人で戦うゲームで、1枚ずつ配って1人だけ違う色だったらその人の勝ちというもの。
現象だけみてなんとなくあれだろうなというのはあるのですが、そんなに単純な話でもなくその単純じゃなさがリアルゲームっぽくてリアル。
ちょっと相手は選びそうですが、際どい感じはスリルあっていいんじゃないでしょうか。
予言的に見せれるやつも載ってるのでそれなら割と見せやすい感じです。

Rap-Ace-ious

ラップに乗せて1枚ずつエースをプロダクションしていく芸能。
一瞬目を疑いましたが本当にそういうことで、動きの説明に合わせてちゃんとライミングされた歌詞が丸ごと載ってます。
例えば

Give the deck some shuffles
So the cards get tossed,
And we add a couple of cuts
So the Aces are lost.

リリックに合わせての動きは全部解説されていますが、技法は参照元が載ってるだけです。
心なしかサイモンアロンソンにしてはサグい感じの技法が使われてる気がします。

Unpacking the Aronson Stack

アロンソンスタックで出来る手品の話。
この章で解説されてるのはメモライズドを使ったものではなく、このセットからこういう手順ができますよという話です。
ネタ自体は普通っちゃ普通なんですが、スペリングを使ったりしつつ終わったらすぐに元に戻せるのでその後にメモライズドを使ったいかついことをやりましょうという感じ。
そういえばこの本には観客が死ぬほどシャッフルしてるのに当てられて死ぬみたいなヤバい感じのカード当てが載ってなくて物足りないと言えば物足りないです。まあAronson ApproachとBound to Pleaseにいかついカード当てがいっぱい載ってるので十分ですけども。

前半は全部フォーオブアカインドが出るトリック。
だいたいはスペリングで帳尻を合わせるものなのですが、多くのランクをカバーしてるのがさすがという感じです。というかどんな並びでも頑張れば何かはできるということでしょうか。実はそんなに一貫性がなくてもセリフでそれっぽく押し切る芸も見どころ。
スペリング使わないやつだと”Jack Coincidence”が超うまい具合にスタックが出来ていて便利だと思いました。
あんまりカードが動かないので適当なタイミングでできるのも良いです。

色んな強い手を見せていく面白いポーカーデモンストレーションをやりつつ自然に元のスタックに戻せる”Routine Maintenance”もとても良いですね。これが出来るだけで価値があるスタックだと思います。

“Truth-Sayer”はアロンソンスタックのいくつかのカードでLie Dectatorができるという話。
前半のフォーオブアカインドが出るやつを含めて、割と何を選ばれてもなんらかの手品ができるのでフォースを使わずに色々できるんではという感じがします。

まとめのOdds And Endsでもたっぷりアロンソンスタックで出来ることが解説されてます。
やっぱりスペリングものが多いですけど、ダウンアンダーでポーカーハンドを配るやつとRandom Tandemのバリエーションが良かったです。

Postscript

追伸として指輪と輪ゴムの手順が載ってます。
輪ゴムと指輪が完全につながったように見えるやつ。
これ系のは色んな人が発表してますが、引っ張って見せるとこからのディスプレイの移行はかなりスムーズなやり方だと思いました。

最後にジョンバノンによるインタビューが載ってます。
作品を発表することの葛藤、解説のスタイルについて、マルローの話、などなど。
アロンソンのマジックには準備が必要で簡単にリセットできないものも多いですが、いわゆる実用的な手品についての考えや、テーブルホップのシチュエーションでは何を演じるかという話なんかもしてました。
また、創作法についても語っていて、これは普通のことを徹底してやるという話なんですけど、その研究ぶりは本を読めば明らかで、世に出てない作品含めて全部でそれをやってと考えるとクラクラしてきます。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です