2016年に出たジョンバノンのメンタルカードマジック本。
色々合本のHigh Caliberが2013年、セルフワーキング縛りのDestination Zeroが2015年でその後の本になります。
この本はセルフワーキングだけじゃないけど最近のバノンらしい低負担かつ準備要らずで出来るトリックが大半です。それでいてメンタルセレクションのトリックや奇跡っぽい予言を軽やかに解決しています。
Smoke & MirrorsやHigh Caliberと比べると現象自体のバリエーション豊かさは落ちますが、それでもメンタルに絞ってそれぞれの作品に独特の面白さがあるので飽きません。
この本のメンタルはごりごりのメンタルというわけではなく、カードが変化したりするし、観客の選択の結果が重要ぐらいの感じなので普通のカードマジック本としても楽しめるけど、ジョンバノンがメンタルマジックの手法やプレゼンテーションについてノリノリで考察してるのが特に面白いところです。
収録されてる作品の多くはDVDのMOVE ZEROシリーズでも見れますが、なんでこういう手順なのかという理屈の部分がおもろくて、特にプレゼンテーションはアマチュアにも演じやすい考え方で作られてるので広い層におすすめできます。
あとImpossibilia や Smoke & MirrorsもそうでしたけどDVD未収録作に良いのが多い。
Line of Sight (Redux)
普通のカード当てですが、メンタルカード当て定番の手法を良い感じの技法でやりつつ、演出も説得力があるものになっています。
何故この演出を取り入れてるのかの解説が面白く、このトリックでなんとなくジョンバノンのメンタルマジック観がわかるんじゃないでしょうか。
Collusion
2人に数字を言ってもらってその枚数目のカード2枚を合体させて1枚のカードを作り、そのカードが数字の合計枚数目から出てきます。
ACAAN的なトリックです。
この手のカードの決め方にも整合性があり、特殊なカードの決め方をする際にどのタイミングで観客にそれを説明すべきかという解説もとても良いものでした。
Prophet Move (Redux)
自由なシャッフルとディールとカットで決められたカードが予言されています。
原理を組み合わせるなら相乗効果があるべきとの言葉の通り、それぞれの原理自体は基本的ながら終始自由さが強調される手順です。
After Shock
メンタルセレクションのカード当て。
Proxy Shock というトリックではサカートリック風に行うのですが、これは直球。
良し悪しがあって、もちろん現象はシンプルになるけどどうしても技法がちょっと不自然に見える。
Rock the ‘Voque’
エキボックを利用した予言。
よくあるエキボックの問題点を指摘しつつ、ではどうするかという詳細な解説がメイン。
このトリックは大まかに絞り込めばあとは自由パターンで、2つの選択でそこまで辿り着けるようになってて、台詞回しもとても上手いです。
台詞もそうだし、見せ方的にそれが不自然に見えない感じにしてるのご賢い所。
予言はジョーカーの間にサンドイッチされていることで示されますが、ここで使われる技法もなかなか。
The Slidewinder Variations
Slidewinderというスイッチ技法と、それを使ったトリックが解説されています。
メインで解説されているSurprise in MindはスペードのAを箱の上に置き、それが観客のコールしたカードと入れ替わるトリック。
観客がカードを言ってから表を見ないといけないトリックですが、それが不自然でないように思わせる見せ方がクール。
これを軸に普通にカードを予言するパターン、やメイトカードを予言にするパターンなど複数のバリエーションも解説されています。
個人的に気に入ったのはSecond Guessという観客がカードを当てる見せ方。
メンタルセレクションと普通にカード引いてもらう組み合わせで、Surprise in Mindの構造を上手く活かせてるトリックです。
Slidewinderという技法自体はちょっと使い所が難しい気もするところ、他のスイッチより無駄な動きを減らせてる手順になってます。
Proximity
観客にカードを考えてもらい、2枚のカードを取り除き、その2枚のメイトの間に観客のカードがあるという現象。
現象だけ聞くとなんじゃそりゃという感じですが、とんちの効いたセリフで面白い感じになってます。
Clean Out of Sight
OOSOOM的なトリックですが、半分ぐらいの中から自由に覚えてもらってシャッフルもしてもらえる。更にそこから一切表を見る必要もありません。
やや冗長な感じは否めませんが、観客のカードを絞り込む演出は古典的な原理ながら見事。
演出のための嘘だけでなく演者がカードを当てる前振りとしても十分機能しています。
Mundo
少数枚でやるOOTW。
2つに分けたパケットの接近感はまあまあある。
ただ、ちょっとした一工夫によってその感じはちょっと薄れててさすがという感じ。見せ方としても少数枚でクライマックス感出せるし良い。
あんまり見ない技法なので対マニア相手でも使える気がする。
Big Bad Add
観客2人に数枚のカードを渡し、自由に出していってもらって出したカードから2桁の数字を作ります。これを繰り返して出てきた数字を合計し、それが予言されているというトリック。
勘のいい人には気付かれてしまいそうな原理を上手く隠す工夫がいくつもあります。
サカー風の予言の仕方もその一つで、この粋な見せ方もとても良いです。
Matrix Reloaded
観客の選択によって決められたカードの合計数をフォースできる原理。
やや特殊な手続きに見えるけど、おーってなる。
数字を出せるので応用も無数に考えられるでしょう。
ESP Bu The Numbers
Matrixを使ったESPカードの手順。
ESPカードは25枚使用し、それぞれに数字が書いていて、カードの予言だけでなく、数字の合計数も予言されてるという現象です。
これまた予言の仕方がとってもクールで、ESPテストのテスト感を損なってないのが良い。
AK-47
観客が思い浮かべたカードを当てます。
釣りとMOが肝で、上手く考えられてるなとは思いますが、個人的には言語の問題とスキルの問題でちょっと演じにくいかなーという印象。
一部の処理は本当に賢く、他の手順にも使えそうなのもあるので十分読む価値あります。
よくある思った数字の数だけカードを取るやつのセリフとかとても良いです。これはHector Chadwickのアイデアとのこと。
Lost in Translation
3枚のカードを予言する手品で、手法もまあ普通だけど、後から確かに3枚とも自由に選んだと思ってもらえるようなものなので、確かなこだわりを感じます。
メインの演出はお洒落ギャグ的な予言の仕方で、これはちょっと考えオチっぽすぎる気もする。
Misremembering Jack
2人に別々のカードを覚えてもらうはずが、なぜか同じカードを覚えていて、更にそのカードは箱の中から出てきて、覚えられるはずがなかったカードであることが判明します。
ここで使われてる技法の評判があまり良くないらしく、「自然さ」についての文章があるんですがこれはなかなか面白かった。ちょっと言い訳っぽいところもあるけど、欠点を認めた上でどういう態度で行うか考えるのは重要。
Go-Figuration
Prefiguration的なあれ。
手続きはバノン好みの技法で固められていて好き嫌いは分かれると思いますが、観客のシャッフルとカットの結果がより重要に見せる方向です。
シャッフルされたデックから良い感じの状態にするまでの手続きが楽で良い。
Presumption Shock & Judo
とあるスイッチ技法を使ったメンタルセレクションの手順のバリエーションが複数解説されています。
基本的にやることは同じで、OOSOOM的な手続きで覚えてもらったカードを当てます。
セットも複雑なシャッフルも質問も不要。
バノンお気に入りは多くの資料で解説されているProxy Shockで、これはサカー的な見せ方。
個人的にはフィジカルとの組み合わせで見て覚えてもらうだけのカードを当てるインパクトを盛れるSplit Second Shockが好み。
Mental Baguette
Thought Cardによるサンドイッチカード。
手法として似たようなアプローチは多くありますが、プレゼンテーションの確かさは随一ではないでしょうか。
観客のコールの後に表を見ないといけない手順なので、これがちゃんと出来てるかどうかはかなりでかい。
Blank Thought Remix
上のやつでブランクカードを使うバージョン。
ブランクカードを使うことで「見えないカード」を作るプロセスの自然さが増し、デックから独立した状態でブランクカードが変化したように見える強みもあります。
とても良い手順。
Candy Crush
Chris MayhewのCAANDYで使われていたSuit/Numberカードを使って1枚のカードを決め、スペリングすると出てきます。
あのアイデアを手軽に使うアイデアとしては面白いけど、そこまで魅力は感じず。
Gregorian Chance
カレンダートリックで使う日付けからカードを割り出す方法。
ちょっと計算めんどいけどその分カレンダーはバラバラに見せれます。
また、Days of Prophesyとして、簡単に日付けをフォース出来る方法も解説されていて、これは手軽で応用範囲の広そうな方法です。
以上。
個人的に好きなのはMisremembering Jack、Mundo、Second Guessあたり。
いやージョンバノンは本当に良い作品が多いですね。
本もDVDもまあまあカバーしてるはずなのでジョンバノン10選という記事を書いてたんですがなかなか選びきれず、とりあえずまだ感想書いてなかった本を紹介した次第。
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