by jun | 2021/06/26

2011年にスペイン語で出たやつの英語版。
EurekaでおなじみのRoberto Mansillaのパーラー用カードマジックが解説されていて、どれも何をどう見せたいかという意図がはっきりしているクラシックのバリエーションで、 クリーンな手法と筋の通った演出によって現象が際立つ質の高い作品が並んでいます。新しい見せ方から新しい手法が産まれていたり、よく出来た創作話としても文句なし。冒頭にパーラーマジックに関するコラムがあり、歴史から魅力の源を探ってパーラーに適したマジックと効果的な手法などがまとめられていて手順も細部にこだわって作られてるのがよくわかりますし、パーラーならではカードマジックならではという感じでとても楽しいです。
好みがもろに反映された手品なので、まんま演じようとすると合わないものは合わないってなりやすいのはあるかもしれません。Eurekaがそうであるようにと言いましょうか、特にそのプロットに独自のこだわりがある場合はそのままレパートリーにするのは難しいですが、新しい視点が入ってるので当たればでかいと思いますし、手法の企みがどれも面白いので演じていくうちにハマっていく感じはあると思います。

Eureka!

ACAAN。
観客にシャッフルしてもらうところが特徴。
CはA、Nは若干の制限あり寄りのAです。
個人的には観客にカードを配ってもらえないのはかなりマイナスですが、サロン想定だとまあそんなに気にしなくてもいいような気がしないでもない。しかしまあシャッフルさせるところがアドバンテージでシャッフルは観客にしてもらうわけですし、うーんという感じ。
良いところは演技中の負担が少なく頭も手も楽。演技力がいるところはありますが、これ系の手法を使う物の中では手順やサトルティでかなり工夫されているものだと思います。
ACAANのように個々のこだわりが強いものだと一箇所好みとずれてるだけで演じない理由になってしまいそうですが、CもNもエニーで観客に配ってもらえるものだといきなりハードが上がるので、余裕を持って演じられるものの方がプロブレム要件どうこうよりトータルで良く見えるということはあるので演じてみると思いの外良い感触を得れるということはあります。
十割蕎麦はちゃんとした人が作ればめっちゃ蕎麦の味がして美味しいけど3割ぐらい小麦粉入れるだけでトゥルントゥルンに出来る感じと言いましょうか、小麦粉って単に経費削減と見られがちですが適当に作るとボッソボソになる蕎麦を手軽に美味しく食べる知恵なのです。
あと、DVDの方で解説されてたか忘れましたけどバリエーションがありまして、これだとはっきりこの手順を演じる理由がありますね。

Outstanding

パーラー仕様のOOTW。
観客に赤か黒か言ってもらいながら分けていくスタイルです。パケット同士の接近もありません。
うまいこと道具を使った解決で、道具の必然性が高いのでクロースアップで似たような手法を使うやつより綺麗に見える気がします。
サロン手品の「見えやすいからこうしましょう」みたいなのが手法に繋がってるやつ好き。

Card in the Envelope

カードイン封筒。
いくつかのアイデアを組み合わせたものですが、演出が面白く手法を隠す良いカバーになってる手順です。
封筒に移動してるのが意外に見える感じのセリフで、手順としてもデックにカードがあるようにしか見えない感じなので強い。
セリフはやや本人以外がそのまま真似するのは難しそうですが、封筒を出す理由の肝のとこさえ掴めばある程度自由に演じられます。

Two and a Half

カードアクロスをやる時に移動するカードをどうするかという問題にかなり高いレベルで回答してるのではという一作。
サインカードでやるとか思ったカードでやるとか色々ありますが、要はこっちにあったものがあっちに移動したように見えればいいわけで、とんち的な説得力があります。
現象としても面白いし、面倒な手続きを大きく省略できるのでサロン手品として超優秀。
傑作。

Everybody’s Card IV

ジェネラルカード。
ジェネラルカードについてかなりがっつりページ割かれててこのプロットの現象としての面白さと気合いが伝わってきます。
この手順はとパーラーならではのある手法を使った解決をしていて、あーそこに行き着くのかという感慨もあるのですが、この手法を使ってパーラーで上手いこと盛り上げる手順と演出が練られててとても面白かったです。
現象を示す導入部とかもサラッとしててプロやなーって感じでおもろいし、その後より不可能なことが起こるという見せ方が出来る手順になってます。

Thanks to Diaconis

3枚のカードをあらかじめ置いておき3人にカードを選んでもらいます。当然テーブルに置いてるカードは観客のカードではありませんが、1枚ずつ変わっていきます。
上のやつの親戚みたいな手順で、これはこれで変な感触があっておもろいですね。
ちょっとした仕事のあとに変化前の状態を見せれるのがよくて、変化させるパートはやっててとても楽しい感じの手順。

What Does Oblivion Look Like?

4枚の両面真っ白カードをグラスに入れ、普通のデックからも4枚取り出して観客に選んでもらい、なんやかんやあって手元の4枚とグラスの白いカードが入れ替わったように見えます。
一見トランスポジションとしては回りくどい気もするのですが、セレクトを入れることによる時間差が良い感じに効いてて独自の味わいなってて面白かったです。

Appearing Cards

セレクトカード2枚を中に戻してワイングラスの中に入れて、ハンカチかけてシュッとやると1枚、もっかいシュッとやるともう1枚出てきます。
サロンカード手品では定番のワイングラス手順ですが、現象も準備も手続きもシンプルなので覚えておくと重宝すると思います。
コントロールも要らないし2枚テンポ良く出せるので出現の現象がかなり伝わりやすいかと。原理としても面白いです。

Hi Germain

上のやつに一工夫足したような手品。
少しの手間で現象により説得力が出ている感じ。

Sunrise

3人の観客に複数枚のカードを渡して中から1枚覚えてもらってそれを当てていきます。
数理的な原理とメンタル的な手法とパーラーでの見せ方が上手く噛み合っている手順です。
原理としては似たような手品はありますが、効率を重視しつつメンタル的な不思議さを損なわないセリフ回しはとても良かった。

最後にHelder Guimarãesによるインタビューが20ページぐらいあります。
主に創作のことを聞いてくれてるのでぴったりの人選。
冒頭のコラムと同じ古典とパーラーカード手品のことをより突っ込んで話してるという感じです。
あらゆる古典芸術に通じることとマジックとの共通点、それを自分のフィールドであるパーラーでどう見せるかという話なので、例えば今だったら配信の手品をどうするかというのを考える時にも当てはまることでしょうし、要はポテンシャルの本質を捉えろという話なので創作論としても演技論としても大事なことをわかりやすく話してます。
後半はFictional MagicとRealistic Magicの話があって、あんまり詳しいことは知らないですけど概要としては十分な内容。
あと、コンテキストについて話してるところがあって、ここは最近関心があったことなので面白かった。
いずれにしても作品を読むとより納得できるようになっていて、どう作ってるかという理屈を知るとジェネラルカードとか特に良く感じますね。
全体的にプロットの解釈と実践的なアプローチがはまってる様が見事で、ここ最近のVanishing Inc本の中では一番刺激を受けました。

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