ジョンバノンが1990年に出した本で、カードだけでなくコインやカップ&ボールなどクロースアップ全般解説されてます。
“Everything should be made as simple as possible, but not simpler”というアインシュタインの引用からはじまる前書き通り、シンプルな現象をシンプルすぎないバランスで見せる手品が満載です。
現象はわかりやすく、シンプルすぎないようにするところは観客を混乱させるわけじゃありません。
複数現象が起こるものでもただ足しただけじゃなく、どれも面白演出と原理がうまく融合した理想的な辛子レンコン手品になってます。
Play It Straight (Triumph)
言わずと知れた名作。ここで解説されてます。
意外と好き嫌い別れる手品ですが、やっぱええですよこれ。
怪しいところが一切ないし、裏表混ぜる理由もきっちりあって、盛り上げ感も十分です。
混沌の中の美って感じのディスプレイもめっちゃ好み。
読んでみるとセルフワーキングでいけるやんこれっていうだけじゃなく、細かいとこまで気を使われててさすがでございます。
Discrepancy City Prediction
予言手品で、選ばれるカードと同じ数字のカード3枚を予言として使います。
観客がシャッフルしてノーフォースでできる強さ。
この手のやつはさっさと見せろやって感じもあるんですが、カード見せてから予言を見せるタイムラグがないことでギリなんとかそう思わせないようになってます。
あんま好きじゃない技法を使っているんですけども、これぐらい意味のある見せ方だとあんま抵抗ありません。
The Unreal Work
4枚のQをデックのトップに置いて、それがボトムとか真ん中とか袖の中とかから出てきます。
ボトム、真ん中、袖!っていう流れがめっちゃ良くて、ギャンブラーの話とも良く合ってて素敵。
普通に使うとやや無理のある技法も「トップに置く」という流れでは自然に溶け込んでます。
Cries And Whispers
カード3枚選んでもらって、それをジャックの中に入れるとジャックがカード教えてくれるやつ。
最後は3枚とジャックが入れ替わるオマケ付き。
これ元ネタはSadowitzなんですが、使ってる技法は同じなのにめちゃくちゃすっきりしました。
現象が起こる中で着々と準備されていくので、複数枚トランスポジションのカウント問題も解決しています。
Oh Calcutta
選んでもらうカードと自由に思ったカードが予言されています。
予言はポストイットに書くんですが、ポストイットのポストイットらしさを活かしつつ、さらに巧妙な仕掛けを重ねて面白演出ともマッチしていて自由に思ったカードを当てるものの中でもかなり良いです。
2枚選んでもらわないといけないのもこういう流れなら盛り上がり感も出て良いですね。
Twilight Zone Assembly
ブランクカードを4箇所に置いて、それの上に3枚ずつカードを乗せます。
1枚ずつブランクカードが消えて1箇所に集まりラストは一瞬でバックファイア。
ブランクカードが消えるのは普通のカードになるってことですが、この見せ方がまずおもろいですね。
アセンブリにありがちな単調さも回避していて、集まってからバックファイアも一瞬です。
意味的にも見た目的にもバックファイアに説得力を持たせていてマジ頭良すぎじゃないでしょうかこれ。
Twixt The Devil
ちょっと変則的なミステリーカード。
ミステリーカードを持ってもらってサイン。
デックに戻した後観客にカットしてもらって3枚のインジケーターカードを決め、なんやかんやあってミステリーカードがサインカードに変わります。
理屈に合わない動きを観客にやらせることで整合性を取るワイルドな方法でちょっと怖いです。
あと無関係のカードが3枚加わることでミステリーカードのミステリー性が薄れてしまうような気もします。
セリフや間が超大事なのでそこらへんはさすがに詰められてますが、Smoke & Mirrorsの方に似たアプローチの”Do The Twixt”というのがあってそっちのが好きですね。
Tourist Class Travellers
4枚のQが別々のポケットから出てきます。
ノーパームノーデュプリケート。
ガスタフェローのあれとかもそうですけど、Qをデックに入れていくとこがめっちゃいいですねこれ。
1枚は堂々とポケットに入れても最終的には全部移動したみたいな印象を持たせる構成も好きです。
パーフェクト思考に走らず観客が持つ印象を優先するの大事。
Travelling Jack’s Sideshow Aces
ジャックを使ったアセンブリかと思いきやエースが集まって消えたジャックはデックの中から、他3枚は別々のポケットから出てきます。
エースが出てくるとこにちょっとした前振りがあり、それでもジャックを使う理由を説明するあたりがうまいですね。
マニアックなプロットをさりげないプレゼンテーションでありにしてます。
バニッシュははっきり示せるしポケットから出すとこの負担も最小限にされてるので、隠してただけやんとは思われにくい構成です。
Wild In The Straights
4枚のジョーカーを使ったワイルドカード的な何か。
ジョーカーを使ってイカサマをすると言って、選ばれたカードとストレートになるように4枚のジョーカーが変化します。
ややパケットでーすみたいな感じはしますが、イカサマテーマならギリいけそうです。
途中のサトルティや処理っぷりはさすがで、精神的な負担が嬉しいですね。
A Little T, T, and A
表裏ぐちゃぐちゃに混ぜてからエース出しするやつ。
こういうのってトライアンフの原理とプロダクションをいくつか知ってれば適当にできますけども、もちろんそんなわけはなくバラバラの中から探してる感が出るように組まれてます。
プロダクションもシャッフルもテーブルいらずで出来るのも良いし、このプロットならではの出し方もいちいち良いです。
バノンは変な技法使うときのここぞ感がほんま上手いっすね。
見た目にもフレッシュかつその技法じゃないとダメみたいな、素材本来の味を活かしてますみたいなノリ。
Shock Treatment
ポケットにカード1枚入れて、最初の観客にカードを選んでもらい、デックに戻します。
2人目の観客にはカードを思い浮かべてもらい、その数字に沿ってカードを配ると一人目の観客のカードが出てきて、2人目のカードはポケットに入れられてるカードでしたみたいなやつです。
この本のカード手順の中ではいろんな意味で難しい一作で、いかにどさくさで頑張れるかどうかが勝負になってきます。
そこはまあバノン式というか上手いことできてるんですが、どう頑張ってもカード配るとこのあれがちょっと気になりますね。
どうしても原理感が拭えません。
思ったカードを予言していた的な部分やカードの選ばせ方は類似のものと比べても違和感ないのですけども。
Creased Lightning
カードの折り方。
マーキュリーホールドよりスムーズにパームに移すことができます。
コンビンシングコントロールからの方法や八つ折りにする方法も解説されてます。
Terrorist Card Vanish
物騒なタイトルがついてますが3段階のカードトゥポケットです。
3段目は折りたたまれたカードが缶の中から出てきます。
Creased Lightningの実用編みたいな感じでハンドリングは割と普通なんですが、このプロットにテロリストの話くっつけるあたりがやばいですね。
Two Ahead (Is Better Than One)
コインマトリックスで、タイトル通りの原理を使います。
パンパンパンじゃなく消える消える集まる!みたいな流れで独特のアヘッド感がたまらんです。
見た目的にはカードのアセンブリに近い感じで、消失と集合を別々に見せれるので混乱を避けれるのも良いですね。
その上ハンドリングにもさほど無理はなくあれするのも消失もクリーン。
Revolutionary Penetration
観客の手の中で紐に通した穴あきコインが抜けます。
手に持たせる時はイロジカルさがあるのですが、チャイニーズコインの特性を活かしてそれがあんま気にならないようになってます。
直前のムーブもこねこねしないので流れるとほとんど気にならないはず。
クッて出すとこ賢い。
The Brass Zero
リングアンドロープ。
リングは指輪じゃなくタイニーリングみたいなやつ使います。
観客にロープの両端持ってもらうタイプの貫通で、割と大胆ですがタイミングを1個ずらしてるのが巧み。
こういう説明の中でさらっと悪いことするのって意外と組み込むのむずいですけど、大胆なことほど細かい動きに気を使う姿勢には頭下がります。
Chop2
チョップカップルーティン。
でっかいものが2個出てくるスタンダードなものですが、大オチの前に中ボスがいて面白い演出です。
オチのために小さい現象の繰り返しになるってのはワンカップの難しいところだったりするので、変化があるのは良いですね。
ちょっと英語的なダジャレも入ってたりしますが、最後の最後まで一貫した言葉使うことで意味不明な現象にしないあたりもさすがです。
Glass Reunion
4枚でやるコイントゥグラス。
今だと結構主流な感じの流れな気がしますが、どの誤魔化し方をどこでするかってのがめっちゃよく考えてられてます。
特に後半は手に確実に残ってるとこ見せたいのでこういう構成が好ましいです。
ラスト1枚問題はパワーですが、より難しくするためという動機で行うことで大きな動きが気にならなくなります。
すごい。
Shanghai Surprise
銀銅でスペルバウンドやって実は2枚使ってましたーからの2枚チャイニーズコインというオチ。
これ高重翔さんの”Spellbound from Zero”が好きで気になってました。
本当綺麗なオチで良いですし、バノン流の都市に絡めた演出もおもろいです。
コイン弱者なのでかなり手こずってますが。
Of Cups And Fuzzballs
カップアンドボール。
たぶんバノン的な間の取り方とかは一番よくわかる題材だと思うのですが、ほぼ何も知らないジャンルなのでそこまで味わい尽くすことができず残念。
Brass-Ackwards Production
コインボックスの手順。
4枚のコインが出たり消えたり。
最後の消えて出るとこがめっちゃ綺麗で、こういう使い方あるん知らなかったのでおもろかったです。
スタートの状態とボックスにあれしとかなきゃいけないのがあんま好みではないですが、デメリットを上回る良さありました。
Flurry Production
コインが消えて出て2枚に分裂して2枚とも消えて出て4枚に分裂します。
最初から4枚パームしておかなくていいのでこういうの覚えておくと便利。
Triple Threat
スタンディングノーエキストラの3コインズアクロス。
空の手を見せれるけどかなり両手が接近するから怪しくなくやるのが難しいです。
コインスルーザテーブルでやってもええよって書いてて、動きや手の位置関係的にはそっちのが自然になるかなと思いました。
Silver/Silver Transposition
お客さんの手の中にハーフダラー入れて演者はクォーターを持つ。入れ替わる。
手に握らせる方法に特徴があり、シルバーとシルバーを使うのにも理由があります。
安全かつ不可能っぽく見えて面白いです。
Return To Spender
2枚のカードでやるリバースマトリックス。
リバースは手で戻しただけやんという感じのも多いですが、これはギリ大丈夫です。
コインは全体的に難易度高めですね。
自分が苦手ってのもありますけど、カードよりはかなりむずいっす。
それでも現象からするとたぶんそんなに負担高くないし、ノイズレスなので練習してみたくなります。
Photologic
透明の封筒にちっこい紙が何枚か入ってて、その中の1枚取ってサインしてもらい、両面白かったはずの紙に観客のカードが印刷されます。
演者は一切紙に触りません。
小道具と演出とサトルティがうまくマッチしててめちゃくちゃ面白いです。
サトルティ効かせるための一手間が話的に盛り上がってその後の怪しさも消していくっていう理想的なパターン。
but not simplerってこゆことですね。
The Birnman Revelation
バノン一押しのフォーエースプロダクション。
テーブルにシュパっと出て良い感じです。
表向きのセットが必要っぽく見えますが、全部裏向きからスタートできるのがいいところ。
というかこの流れ色んなプロダクションに応用できそう。
Coins Across The Water
3枚のコインが消えて財布の中の封筒から出てくる手品ですが、演出がぶっ飛びすぎてて最高です。
そのアイデアに説得力を持たせるためのディーテールが更に変なことになっていて、無駄にも思えることの細部を大真面目に突き詰めていて本当に素晴らしいと思います。
こういうあからさまに嘘だけどビジュアルと組み合わせるとギリ信じかけるバランスの話は面白いです。
Shriek Of The Mutilated
破ったシガレットペーパーの復活。
あんまり馴染みないもんですけど他のもんで代用もできます。
フラッシュペーパーの使い方がとてつもなく賢いです。
Bonus Section
ポーチタイプのパースを使ったロードとスチールのアイデア。
お土産屋さんとかでよく売ってる感じのあの形のやつです。
密閉性は高いのに色々するのに適した形ってことでなかなか面白そう。
あの形だと折ったカードとかも綺麗に入るし。
“Coin Of Voodoo”はチャイニーズコインにサインしてもらって紐に通し、手に握って両端を観客に持ってもらいます。
それが消えてパースに戻るという現象。
ああいう不可能性高くてクリーンに消える現象とは相性良さそうですね。
“Pouched Copper/Silver”もうまくパースの特性を活かしたトランスポジションです。
ぐっと負担が減るしパース自体は改めれるし持ってもらっててもいいのでかなりバランス良い作品かと思います。
最後の作品”Five-Star Engraved Production”はパースを観客に持ってもらって、トランプから4枚選んでもらいその中の1枚をひっくり返してもらいます。
パースの中を見るとキーホルダーが入っててそれに予言が彫られていて当たってるという現象。
マジシャンズチョイスを使わず確実に自由に選んだカードを予言していたみたいな印象を持たせることができます。
パースからこういう現象思いつくまではまああるとして、そこに合ったカードの選ばせ方とかハンドリングとかのマッチぶりが全部うまくいっててやばいです。
んなわけで全作品に言及してしまいましたが本当に隅から隅まで面白い名著だと思います。
道具や技法の使い所がいちいちうまくて、技法とかって基本的にはそれだけだと不自然なものなので、こういうセンスは羨ましい限りです。
コンニャクって最初に作った人すごいじゃないですか。
コンニャク芋って生で食べると毒でお腹痛くなったりするんでまずなんとか食べようとする意識がすごいですし、煮たり溶かしたり石灰混ぜたりまたぷるっぷるに固めたりと製作過程がヤバすぎます。
誰も今のコンニャクを知らない時にあれが出来たのってマジ凄いと思うのですね。
この本に載ってるジョンバノンの手品にはそういうところがあって、コンニャクでいうところの石灰混ぜる工程を丁寧にやってる印象があります。
コンニャクと言えば正月に食べる「手網コンニャク」という改案が有名ですが、あれは単なるビジュアル志向とかではなく、出汁に触れる表面積を増やしたことによって味が染みやすくなってるのですね。
ジョンバノンがこの次に出したSmoke & Mirrorsという作品集は手網コンニャク的な改案のセンスが光る一冊で、コンニャクねじるのに切り込み入れてクルンみたいなあの感じが楽しめますので、お屠蘇気分を味わいたい人にはそっちがおすすめです。
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