今年スクリプトマヌーヴァから出たLuis Piedrahita著 Coins and Other Fables の日本語版。翻訳はManos KartsakisのV2も手がけた宗像寿祥さん。
オリジナルのスペイン語版 Monedas Y Otras Historias は2011年の本です。
リンク先に動画があります。こういう手品が解説されてます。
コインがあやなす奇譚な物語 | スクリプト・マヌーヴァ
動画は彼が放送作家もやってるテレビ番組で、アンドリューガーフィールドやらジャスティンティンバーレイクやらマイリーサイラスやらがゲストに出るような番組でまあ盛り上げてます。
キャラクターや演技スタイルもさることながら、引きの強い道具立て、じっくりフェアに見せられる構成、現象が起こる瞬間のわかりやすさ、期待を持たせるセリフなど、あらゆる要素を上手いこと絡ませてあのレベルに行ってることがよくわかる本です。
どれも色んな意味で難しくテクニックも演技力も必要ですが、見せたいものを見せたいように見せるための構造の堅さと手法の選択の確かさは読んでるだけで興奮しました。
各トリックの冒頭文や解説の至るところで、彼がコインという素材やコインマジックというもの、プロットや技法までそれぞれどう解釈してるのかが徐々にわかってくるような文章で、めちゃくちゃ面白くコインの見方ががらっと変わるような内容になってます。
全体的に関心したのがギミックの扱い。
この本の手順のほとんどがなんらかの何かを必要としますが、現象のインパクトの跳ね方、ハンドリングの軽さ、自然な動きで処理できることなどなど、メリットが馬鹿でかくてストレスを最小限にしてる作りです。
多くは現象の前後のクリーンさのために使われており、この公明正大さがあってこそ緩急を作って沸かせることができるし、ちょっと怖い部分やハンドリングが重くなりそうなところも上手いタイミングと動機の強い動きでカバーできてます。
ギャフの存在を隠す技法やギャフについてのコラムも載ってるんで、本書での使われ方を参照してそもそも使うべきかどうかという事も含めてコイン手順をブラッシュアップするのに大いに役立つ内容です。
あと、”ハンカチを通り抜けるコイン”と”プチプチ・マトリクス”のあれ、こういう処理にバタつかない使い方なら手を出してみたくなりますね。ハンカチの方は試してみたけど普通に行けそう。この手順は手法を視覚的にも気持ち的にも隠蔽して現象に説得力出す一連のプレゼンテーションもとても良かったです。
素材と見た目の面白さではやっぱりトイレットペーパーの芯を使う”ラムゼイ・シリンダー”とサインコインがアスピリンの中に入る”コイン・イン・アスピリン”、裏もとても面白いことになってました。
アスピリンなかなかの大仕掛けだし現象がえぐすぎて器のでかさも求められる手品ですけどこれはやってみたい。
ぱっと見オールドスクールな”カッパーとシルバー”や”コイン・スルー・ザ・テーブル”の完成度も凄まじく、この2つは現象をどう見せるべきかというのがよく分かる解説もめっちゃ良かったです。クラシックなプロットの問い直しを丁寧にやってどこに手を入れるのかというのはこの本全体の読みどころだと思います。
まあ、手順は全部凄かった。
この本に載ってるどれか一つでも出来れば…という密度の高さです。
特典でついてくるエスカピスト・コインもとても良かったのでスクリプトマヌーヴァから購入すると良いと思います。
自分はコイン全く詳しくないですけど、たぶん知ってる人ほど感動できる一冊なんじゃないでしょうか。
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