by jun | 2020/04/07

1995年のサイモンアロンソン本です。
高名な方が書いた25年前の本なので、何を今更と思われるかもしれませんがサイモンアロンソンは良いです。サイモンアロンソンは良い。
まだ2冊しか追ってませんけどこれはマジで凄いですわ。

この本だけで30作品ほど解説されており、どの作品もいちいち完成度が高くて、現象のセンスも良いし手法と上手く噛み合ってるしユーモアある演出も大変好みでした。
手法にも関わるのでここでは章分けしませんが、ゲーム要素の強いGame Magicians Play、簡単なセットかノーセットで出来るShort Order、エキストラカードや他のアイテムを使うSomething Extra、特別なセットを使うWell Stacked、メモライズドデックのMemorable Events、奇跡に挑戦するThe Cross Index Indexとチャプターが分かれています。

Point Spread

ミラスキルのルーティンです。
ゲーム形式にすることで赤とか黒とか枚数差の話が分かりやすくなっていて、プレゼンテーション面でも大変参考になるのですが、観客がシャッフルした状態からのShuffle Boredへととても上手く繋がる構成がとにかく素晴らしい手順。
現象的にもミラスキルからShuffle Boredって綺麗かつ不思議度も上がる繋がりっすね。

Moves and Removes

9枚のカードを3×3に並べて、好きな場所のカードを出発点にしてマーカーを移動させつつ、ルールが書かれたメモ通りにカードを減らしていけたら勝ちというゲームです。
減らしていって最後に残るカードが予言されてるというものですが、途中でいくつも自由に選択できて、ゲームとして気持ちよく手順を進められる楽しくて不思議な手品になってます。
スペリングが入りますが、工夫すれば日本語でも演技可能です。
予言の示し方がおしゃれ。

Child’s Play

石、はさみ、紙、と3色のチップを使ったジャンケンゲーム。
物を1列に、チップをその前に一列に並べて、演者は後ろを向き、観客に位置を入れ替えてもらってから、チップにそれぞれ石、はさみ、紙を割り当ててもらい、その勝敗を当て、どのように割り当てたかも予言するという手品です。
巧妙な原理で、良い感じのズルさもあって予言の見せ方とかもめちゃくちゃ良いですね。
日本式じゃんけんなので演じやすいですし、現象の不思議さもわかりやすくなると思います。

Simple Double Duke

シンプルでフォールスディールも要らないポーカーデモンストレーション。
Aを4枚1つの手札に集め、もう一度やろうとしますが1枚失敗、その1枚は演者の手札にあってロイヤルフラッシュにという手順です。
コントロールも割と直感的かつフェアなもので、短いルーティンに意外性を込めれる手順になってます。

Stack In Trade

現象的にはSimple Double Dukeと同じですが、入れ替わり要素なところをマジック的に見せられるようになってます。
単純にカードが入れ替わるより、デモンストレーションの中でやると観客が結果を想像するから意外性も高く、入れ替わったというイメージも浮かびやすいのかなと思います。

Three For Two

3枚のカード当て。
Bound to Pleaseではカード当てはメモライズドデック主流でしたがこれはノーセットで操作は全て観客に行ってもらえコントロールも不要。
操作感はありつつも、3枚を別の方法で選んでもらうという演出によって楽しい感じになってます。
手続きにマニアックなところがあり、見る人が見ればあーあれをやるんだなというところから実はそれをしなかったりしておもろいです。

The Aronson Stripout

ストリップアウト感を減らすテーブルでのストリップアウト。
1つの動きにストリップ感を減らす要素が重なっていて、前後のムーブも工夫すればさりげない感じに見えると思います。
難易度は比較的優しいですが、素の動きだけに極めがいもありそうです。
この本に載ってるような軽いタッチのギャンブリング手順や、メモライズドデックを軽くシャッフルする感じにはこれぐらいさらっと出来るのがバランス良いんだと思います。

Quad-Mates Revisited

4枚を自由に選ばせてからのQuad-Mates。
そういう不思議を起こすための演出も凝っていて楽しいです。
4枚選んでもらうところはヒロサカイさんのアイデアが使わらているらしく、Spectator Find Acesとしてもかなりクリーンな方法なのでそこだけでも価値があります。
アーロンフィッシャーのやつをちょっと楽にした感じの方法。

Doublestop Simplified

いわゆる同時に現れるカード的なやつで、2枚のセレクトカードが2つのパケットの同じ位置から出てきます。
一見ダイレクトな手法ですが、観客が混ぜたっぽい感じになって途中から演者は触らなくて良く、位置も言い当てれる感じになって不思議度高いです。
2枚をオーバーハンドシャッフルでコントロールする方法も参考になり、コントロールさえ上手くいけば見せ方次第でなんでもありやなということも確認できる手順。

This Side Up

指示が書いてるカードがあり、サインカードをデックに戻して指示通りに観客に操作してもらうと、ずっと演者が持って読み上げていた指示カードの裏が観客のサインになっています。
とても素晴らしい現象で、この現象にあって無駄なところ皆無。
セリフも面白く、良い感じに期待値上げつつユーモラスに見せることができ、上手いこと気を反らせる感じになっていてまあ素敵です。
傑作ではないでしょうか。

Happy Birthday

日ごとに別のカードの名前が書いたスケジュール帳があり、観客に誕生日を聞き、デックに1枚だけある色違いのカードがその日付けに書いてるカードと一致するという素敵手品です。
色々と良いところはあるのですが、色違いのカードと手帳さえあれば一応これ借りたデックで出来るというお手軽さがあります。
そういう使い方もあるのかっていう。
一応デックの表を見ないといけない場面はありますが、コールカードで現象を起こすのではなく誕生日を聞くだけなので、カードを探してる感はありません。
事前に誕生日を知っておく必要もなく、誕生日を聞くというのは特にまどろっこしい感じもしないですしとても良い方法だと思います。

The Calendar Card

Happy Birthdayを予言風に見せるような手順で、こちらは誕生日とカードが一覧表になったものを使います。
よりカジュアルに演じたい場合はこちらという感じですが、見た目は普通の予言っぽくなってしまうので個人的にはHappy Birthday推しです。
色々とアイデアが紹介されていて、可能性感じる手順ではあります。

Two Possibilities

オープンプリディクションです。
たぶん十戒みたいなやつからするとほとんど当てはまっていませんが、手堅い感じでストレスがありません。
タイトル通り、「2つの可能性があります」というセリフで進んでいくのが面白く、どちらかというと見せ方の面で参考になるところが多いです。
オープンプリディクションみたいに、何故そういう選ばせ方をするのか何故すぐ示さないのかという手品の場合は特に、最初に引っ張るようなセリフがあるだけでだいぶ印象良くなると思います。

The Trained Deck

3段階のナンバートリック 。
現象的には何かに従って配ると選んだカードが出てくるという感じ。
選んだ3枚のカードの合計値の枚数目から出てくるのとスペリングで出てくるやつと。
フルスタック必要ですが、フェイズごとにシャッフルしてもらえるのでそういう気配がなく、普通に手品する人もコロっといける手順だと思います。

Doubly Lazy

Lazy Man’s Card Trickを2枚のカードでやるバリエーション。
選ばれた2枚のカードが何枚目にあるかわかるというような手品です。
元ネタもよく出来た手品ですが、これ2枚目の場所当てるのもほとんど演技中の負担が変わりません。
観客から見ると、2枚やることの難しさというより、シャッフルした印象が強くなります。

Spell Check

スペリングして出てきたカードでまたスペリングしてというのを繰り返すと最後にスペリングしたとこから観客のカードが出てきます。
最初をフリーチョイスにできるから、全部のカードが運命で決まった感になって結婚盛り上がりそう。
ちょっと日本語ではどうにもならない感じで残念。

Suit Yourself

アロンソン流のSympathetic Thirteen。
とてもとても良いです。
タイトル通りシンパセティックするマークを観客のフリーチョイスで決めることができます。
ランダムな状況の作り方が良くて、確かにシンパセティックしたという感じがあります。

Past, Present, Future

過去、現在、未来をそれぞれ当てるという3枚のカード当て。
同じような演出のものはいくつかありますが、ここまで作り込まれてるのもそうないんじゃないでしょうか。
ちょっと設定の辻褄が合わせ辛いようなところもセリフの巧さだけで説得力を持たせていて素晴らしいです。
原理も凄くて、現実的に考えたらどっかでフォースかピークしてポンポンで良いような気もしますが、そういうことが一切なく、3枚のカードを一つの原理で繋いで当てていく感じが気持ちいい手順になってます。

Lazy Memory

Double Lazyのバリエーションです。
確かに観客にやってもらうことはすっきりしますが、セットの手間とのバランス考えるとそこは微妙なところがあります。
ただし、応用範囲は広くなっていて別バージョンのアイデアをいくつか紹介されており、以降2つの手順もこれに類する感じのトリックで、そっちは上手く手法の特性を活かした手順です。

Everybody’s Lazy

Double Lazyに観客が演者のカードの位置を当てるという追加エンディングが付きます。
ほぼ演者の負担は変わらず、手品的にも綺麗なオチで、このバリエーションの中では一番気に入りました。
観客のシャッフルがあるから不思議ですし、観客の欲求を満たしていくというプレゼンテーションもめっちゃハマってて面白いです。

Two Wrongs Make It Right

赤いデックと青いデックを使ったDouble Lazyのバリエーション。「間違った予言」の演出で行われます。
赤は箱に戻し、青の中から2枚選んで予言を見ると、2つとも間違ってます。
赤と青を並べて同時にトップからめくっていくと、予言に書かれていたカードと同じ位置に選ばれたカードが来ています。

一見パワーオブソートでええやんとなりそうですが、やっぱりこの手の現象は観客の自由な選択が重なってから行うと効果が高いです。
サカートリックのセリフの工夫もやっぱり良くできております。

Taking Advantage of One’s Position

メモライズドデックについてのある原理について。
当たり前と言えば当たり前な話なのですが、実際の流れで見ると絶対にそんなことになってるとはわからないものです。
複数枚選んでもらいバラバラに戻し、表向きに配っていって観客の心の中のストップを感じ取るという見せ方が解説されています。

Self Centered

Taking Advantage of One’s Positionの原理をより複雑にしたような手順。
まあ普通はここまでやる必要はない気もしますが、元の原理の方だと別の原理の方を想像されてしまうということもあり、マニア向けにはこれぐらいややこしくしておいた方が良さそうではあります。

Madness in our Methods

デックに一切触れず表も見ない3枚のカード当て。
それぞれ別の覚え方をしてもらい、メンタリスト、スライハンド、数学者という設定で当てていきます。
デックに触れないのはこの本でも多くの手順が紹介されていますが、演出のハマりぶりは屈指の出来で、比較的簡単に出来るようにもなってます。
解説読んでてもこの段階で全部わかるのかという感じがあってとても好み。

Topsy Turvy

3枚選んでもらって表裏に混ぜて当てます。
自由にシャッフルした感じは一番高い手順ですが、やたら難易度が高いです。
練習用手順としてはかなり優秀。

High Class Location

これも3枚のカードを当てる手品です。
アロンソンのメモライズドデックを使った手順は観客にシャッフルしてもらうパートが入ることが多く、現象後スタックが跡形もなく消え去ってしまうことが多いのですが、実は跡形もないというところまではいかなくてある程度の状態が残ることもあります。
この手順はそういう状態から見せれるかなり不可能性の高いカード当てです。
特に凝った演出は書かれてませんが、セリフとかは他の手順で使われてるものを流用できると思います。

The Open Index

引いてもらったカードではなく、自由に言ってもらったカードが箱の中から出てきたり、自由に言ったカードを観客が選んだり、そういうことに関するアイデアが色々と書かれています。
現象のアイデアや基本的なテクニック、コールカードの現象が魅力的な理由など、ここを読むだけでメモライズドデックを使いたくなるような話です。
あと、スプレッドカルフォースについてのハンドリング案が紹介されていて、クラシックフォースに近い印象を与えられる方法になってます。(1枚だけ裏向きに表を見せずに渡せるという意味)

The Cross-Index Index – Charting the Course

ここから始まるチャプターの紹介。
バーグラスのエニエニを肴に、奇跡的な現象の分析とアプローチについて語られています。
要は超確率が低い(ように見える)現象をどのあたりのバランスでやるのが良いかみたいな話です。

Fate

観客にカードを選んでもらい、誕生日ごとにカードが決められた表を見ると一致していて、そのカードが予言されてるという手品。
誕生日は事前に知っておく必要がなく、カードもフリーチョイスです。
Happy Birthdayより技法感は減っていますが、準備とかクリーンに見せる難しさとか色々込みで考えるとどうかというところもあります。
ただ、やはり演出の遊びの部分がよくできていて、なんかこういう一工夫で良い感じに見えるのはさすがだなと。
あと、誕生日さえ知っていれば、カードをすり替えれば、など、観客が何か一つの手法を考えた時にどうにも説明がつかないようになってるのは凄いです。
こういう重ねる系の予言って後から考えたら、重ねただけで現象的には1つのカードを選んだことを予言していただけということになりやすいので。

Signs

好きな色を聞き、カードを選んでもらってシャッフルし、デックにはもう触りません。その後星座を聞いて、封筒から星座にまつわることが書かれたカードを出します。
観客の星座のところのラッキーナンバーの数だけ配ると選んだカードが出てきて、ラッキーカラーを見ると最初に言ってもらった色が書かれています。
この超ミラクルが、そこそこの準備でできてしまいます。
ちょっと頭は大変ですが、たぶん慣れて覚えてくる部分もあるし経験積めばすんなりできそうです。

もっと要素を増やしたバリエーションも解説されてますが、バランス的には短いので十分かなと思います。
これはめちゃくちゃ面白いので、エニエニ好きな人とか是非研究してほしいです。
この考え方なら演出のバリエーションもかなり幅増えますし、キャッチャーでミラクルな現象を作れそう。
この後も同じ原理を使った別演出の手順が紹介されているので、色々と参考になると思います。
フリーチョイスの点を損なわなければ、もう少し手軽にできて確率自体はそこまで低くないバランスでも良いような気はしますね。肝は複数の選択が一致する面白さなので、その中での選択肢の多さ自体は絞ってもそこまで魅力落ちないと思います。

そんなわけで、サイモンアロンソンが凄い本でした。
現象もプレゼンテーションも良いので、それだけで演じたくなるようなものばかりです。
あえて言うとメモライズドデックが木っ端微塵になる手順が多く、繰り返し演じるようなシチュエーションには向かない感じでしょうか。
でもまあメモライズド以外の手順に傑作必殺級が多いので一冊でバランスは取れてると思います。

各手順ノート部分での追加アイデアが非常に充実しており、一つの手順から考えられることも多くこの一冊でかなり遊べそうです。
次も楽しみ。
サイモンアロンソンは良い。

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