by jun | 2018/10/12


1991年に出たジョンバノンの名著。
Impossibiliaは電子版が出ておるんですけどこっちは絶賛絶版中で、読む手段がプレミア価格の中古を手に入れるしかありません。まあまあの値段で買ったと思ってましたが今もうちょい上がってる模様。
そういう意味では少し勧め辛いのですけど、内容は本当に素晴らしく全力でおすすめできる一冊です。

Heart of the City

Impossibilia収録”Discrepancy City Prediction”の発展系で、予言の後に封筒の中に入ってたカードがサインカードでしたというオマケがくっついています。
絶妙にもやっとする”Discrepancy City Prediction”の余韻も悪くありませんが、はっきりしたオチを2段階のテストという体でうまく繋げていて素晴らしいです。
複合現象をいかに一貫した流れで見せるかってのはバノンの得意技ですがこれもまあ見事で、いかに不可能なことかっての説明も上手く入れつつ、怪しいことする時はなんでもないみたいな感じでさらっと流れます。
封筒の中にミステリーカードを入れてるってのも非常にうまいですね。
デックから抜き出したり箱の中に入ってるということじゃなく、封がされている封筒の中に入ってるのがミソ。

Clock O’Doom

クロックトリックとトライアンフとビドルトリックを合わせたような手順。
そう書くとなんかごった煮しただけでつまらん感じがしてきますが、例のごとく細部へのこだわりがエグくてかなり魅力的な手順になってます。
セルフワーキング的な原理を使うわけですけども、本人しか知り得ないカードが消えた感がはっきりあってキモいです。

Shake Well Before Using

フルデックのオイルアンドウォーター。
赤黒に分けてるとこ見せてから始めるタイプで、途中までバノンらしからぬスライト頼りかと思って読んでたらシュッとかゴギっみたいな怪しいとこがないやり方でした。
この技法好き。
これやる時ってシュルルルってやってからのやつが主流な気がしますがこのやり方の方が安定しますね。

One is the Onliest

ワンコインルーティン。
サインしたコインが消えたり出たりでかくなったり薬のケースに移動したりします。
体全体を使った見栄えのするもので、ノイズを感じさせない流れになってて良いです。
ジャンボコインの使い方が面白く、箱イン落ちの前にこれがあるのに趣深いものがあります。
箱から出すあのやり方ほんと好き。

Fat City

テーブルに置いた2枚のカードの間に選ばれたカードが飛ぶというコンセプトのサンドイッチカードですが、選ばれたカード以外のカードが全部挟まるという衝撃展開。

準備段階の動きはマルローのサンドイッチでよくあるしそれ的なのかなと思わせることができます。
マニア向きっちゃそうですが、サンドイッチの2段目以降にうまいこと繋げれば意外な展開と思わせることはできますね。

Tattoo You

青裏の中からカードを1枚選んでもらいサインしてもらいます。ポケットから赤裏の予言のカードを取り出し見てみると一致しています。
さらに青裏に書いてあったサインがビジュアルに赤裏のカードに移動します。

言わずと知れた大傑作みたいなの多いジョンバノン ですがこれもその一つ。
使われてる技法やサトルティも色んなとこで使われてますね。
全部の動きがこのトリックにぴったりで、半端なきディテールの詰められっぷりにマジ感動します。

Masquerade

4枚のジョーカーが1箇所にアセンブリして直後にエースに変わるやつ。
ジョーカーが4枚というシチュエーションから入るのがあんま好きじゃないんですが、ごちゃごちゃとパケット持ち替えたりせずにやるハンドリングはめっちゃええです。
このオチでレギュラーでできるやつの中じゃ最強じゃないでしょうかね。

あんまりカウントが目立たないところも良くて、消失はクリーンだし、移動の示し方もなんで誰もこうしなかったんだろうって感じの当たり前に賢い感じ。

Outer Limits / Beyond the Pale

ちょっとの質問で見て覚えただけのカードを当てちゃうやつ。
憧れ現象を確実にお手軽にって感じで、最近でも同種の現象の売りネタ出たりしてますが、覚えやすいし観客に持ってもらえるしかなりフェアに見てもらえるし、なかなかこれ超えるやつはないと思います。
質問しても不思議さがあんま減った気がしないのも良いですね。
これ系のメンタルで当てるだけじゃ物足りないのか他の観客がカットした場所から出てくるみたいなのもありますけど、カード見た人にとってはズバッと言い当てられるのが一番キモい気がします。

Trick Shot Production

カード引いてもらって当てます。
当て方がヤバくて、カードケースからいきなりビリヤードボールがボコッと出現、そのボールの色と数字から当てるというもの。

こう、箱から出そうで絶対出ないぐらいの大きさのものが出るの良いですよね。
かつ丸いものだとそこから出てきた感がめっちゃ出て更に良いし、カード当てに使うのも面白い。
メンタルっぽく進んでこういう謎エンディングを迎える手品ってのもとても好みです。

(The Mystery on the) Aztec-Orient Express

銀貨と銅貨とチャイニーズコインのルーティン。
あの入れ替わったりするやつです。
この手の知識ないジャンルになるとバノンの凄みが分かりづらいのが悔しいあたりではありますが、これ読むだけでもめっちゃすっきりしてるのはわかります。
現象に焦点が当たるような手の動きというか、3枚別コインでも位置関係が混乱しないような見せ方。

Strangers’ Gallery

カラーチェンジングデックのルーティンです。

最近出たSwiftっていうビジュアルなカラーチェンジングデックができる商品がありますが、あれは複数枚広げた状態でできるので元のデックの色を強調できます。

Strangers’ Galleryもその方向といえばそうなんですけども、より深く観客の心にデックの色を印象付けることができるもので、ただ改めるだけじゃなく、ちゃんとおもろい現象が起きるなかで植え付けるのが素敵。
こういう現象のくっつけ方のセンスは一体なんなのでしょうね。
チラリしてもいけないし固くなりすぎてもダメで、自然な動きの中で全部の裏を見せたように思わせる現象って言われても普通思いつかなくないですか。

The Texas Chainsaw Massacre Card Trick

サインしたカード以外がバラバラに切断されます。
“Texas Chainsaw Massacre”はみんなが大好きな映画「悪魔のいけにえ」の原題で、その名に恥じぬバイオレントな手品です。

立ったまま演じることができ、さらっと流されそうなスイッチの部分も詳細な解説があります。
同様の現象の中でも負担と説得力のバランスがかなり良いです。
準備段階も含めてかなり楽。
電動カミソリを使うバージョンとかも紹介されてて笑いました。

Single Bullet Theory

観客が持った袋の中にちっさい球入れたはずなのに大きい球が出てきます。
弾丸キャッチを題材とした手品でこれもバイオレンスストーリーですが、観客とうまくコミュニケーションを取れる設定で、絶妙に気の効いたオチのセリフまで言ってて恥ずかしくなるようなことはありません。

使う道具も面白くて、こういう見た目とギャップのある物の「手品に使える!」みたいな衝動があります。
このご時世その衝動をそのまま出しちゃいましたみたいなもんも多いですが、演出からハンドリングまで徹底的に作り込むバノンの姿勢はカード以外の手品の方がわかりやすいかもしれません。

Reversal of Fourtune

ホフジンザープロブレムです。
チャドロングの”Another Rumer”と手法が似ていて、それ自体が強い技法なんですが、セレクトカードは観客の手の下に置いておくというよりインパクトの強い見せ方ができるようになっています。
みんなが改案してるプロットをバノンがぬるいバージョンで出すわけないんですけども、これは本当に良いです。
既にすり替わった後でエースパケットを観客に抑えてもらうやつだと、この後なんか起きるんだな感があって入れ替わり現象のインパクトが削がれるんですが、これは観客のカードを観客が抑えてるだけなので何の引っかかりもありません。
技法は全部その時点でなんかするとは思わないタイミングで行われますし、読んでからだと確かにホフジンザーってそういうのに向いてるプロットだと思わされます。

Boogie Woogie Aces

オチがあって移動が単調ではなくビジュアル展開もあるジャズエーセス。
「黒いカードを置きます」の部分は毎回同じカードで統一されていてそれがオチにも繋がります。
カードをカウント上都合のいい場所に移動させる動きにもこだわりがあり、細かく決められたカードの構成もぬかりありません。
すごい。

The Ace-Man Cometh

サッカートリック風味でえーすだすよーつってからなんやかんやあって4A出し。
英語的ギャグも含まれますが、細かに現象が起きるので失敗した風の演技はそう難しくないです。
連続した変化現象で、表向きのセットが不要な代わりに気になるとこもなくはない感じですが、演技の流れの中だと大丈夫な気もします。

実際手順追ってみるともう変わってるんでしょ感がなく、変化する枚数が増えていくからなのかなんなのかわからんですけど、こういう構成力は一体なんなのですかね。

Hop Two It

カードが2枚移動するカードアクロス。
大枠はロンウィルソンのハイランドホップなんですが、赤と黒をあれするとことか移動するカードをあれするとことかがバノン流で、視線の誘導の動機付けも見事。
全ての作業が終わってからのセリフや間にも気を使われていてさすがっつー感じです。
2枚選ばせるから2倍凄いと思わせるのってなかなか難しいですが、盛り上げ方もぬかりありません。

Detour de Force

2枚の予言で、1人目は表向きに配ってストップをかけてもらい、2人目は裏向きに配っていってストップをかけてもらいます。
2人目が配る前に裏に大きくカードの名前がマークしてあること見せてやってもらうので、表向きのカードとマークが見えた裏向きのカードがテーブル上にあります。
2枚の予言は外れるのですが、カードの裏にはカードとは別のマークがしてあり、ひっくり返すとどっちも当たってるみたいな。

これめっちゃおもろいです。
予言の一致としてはちょっともやっとするんですが、2枚がそれぞれ別の形で一致してるところで謎のパーフェクト感が出ていて独特の余韻がたまりません。
サッカートリック風の予言の回答として完璧じゃないでしょうか。

使うデックの構成見るとちょっと怖い部分もあるのですけど、極めてフェアに見せれるハンドリングと一工夫足されてる箇所が素晴らしいです。

Directed Verdict

スベクテーターズカットザエーセスです。
これ、Dear Mr Fantasyに”Final Verdict”っていう完成系が出てるのんですが、互換関係というより割と好みの問題な気もします。
一番引っかかるポイントの場所が違うんですけど、途中でなんかしたいか最後にしれっとやりたいかみたいな差。
このプロットは何が起こるかわからん状態の強みを活かすものなので、どっちでも観客の印象は変わらないかもしれません。
タイミング的には”Final Verdict”の方がバノンらしいかなとは思います。

メインで解説されてるのを合わせて5バージョンあって、ほぼセルフワーキングでできるⅢあたりもやらしくて好きです。

Duet To It

ハートのA,2,3をだして、それとは別に観客に2枚のカードにサインしてもらいデックに戻します。
そこから2枚のスペシャルカードを取り出し、その中にAを入れると全部Aに、2を入れると全部2に、3を入れると3になり、3を取り除いて2枚のスペシャルカードを見るとサインカード2枚に変化しています。

こういう不条理系やらせたら間違いないですね本当に。
動きだけ見ると随所で気になるとこもあるんですが、やっぱ全体の構成が凄くて、連続して同じ現象起こすことでパケットとサインカード戻したデックが接近したようには見えなくなってます。

Steel Convergence

レギュラーカードのみでやるカードスタッブ。
バーン投げてナイフでグサーするとサインカード刺さります。
刃物大好きバノンさんのバイオレンスサイド全開のネタです。
結構注意しないとマジで血出るので気をつけましょう。

ノーデュプリケートでやるにはこれ以上はないんじゃないかってぐらいフェアなので、これはマジックなのかガチなのかという話にも触れられています。

OZ Deposit

サインカードと100ドル札の変化&移動現象です。
あっちこっちする現象を混乱させずに見せるためのお話がめっちゃおもろくて、サインさせることにも意味付けされてるってのは超綺麗でこの本の中でもベスト級に好き。
ギャグをギャグだとわからせつつリアリティもある話みたいなの本当うまいですよね。
それでもお客さんは選ぶと思いますが、態度さえ間違えなければ幅広く演じられるようになってると思います。
マジックにくっつける話が難しいのって、お客さんはそもそもマジック見るのに慣れてないのにそこに更に入れ子で話入れるからってのがあると思うんですけど、バノン話は非日常になりすぎず、アイテムの絡め方が絶妙なのですよね。

Return of the Magnificent Seven

ノーギミックのワイルドカードです。
手を動かしてみるとおーおーってなるんですけど、人に見せるかってーと微妙なところがあります。
パケットの扱いは勉強になりますし、単調とかではないのですが。
ギャフ使って変なものが印刷されるバージョンが見たい感じしますね。

Ton-Toid

TonはTon OnosakaさんのTonで、元ネタはこんなやつです。

これ的な現象をレギュラーでやるのがTon-Toidで、2枚のジョーカーから始まってそこにQ入れてジョーカーに変わってまたQ入れてジョーカーに変わって最後はロイヤルフラッシュになります。

原案のように広げて見せれないので最後はジョーカーが1枚もなくなるようにして、途中で隠してただけじゃないよーって感じが出てるのが良いですね。

Real Secrets

カードインザボックスのルーティンで、最後はSucretsの缶の中から出てきます。
Impossibiliaから進化した”Creased Lightning Again”という折り方を絶妙なタイミングでやるのでかなり楽にいけるはず。
この缶から出すとこ本当良いですよね。

Underhanded

カードアンダーザグラス。
もうここまで読むと当然という気がしてきますけども、雑に視線とかミスディレクションつー言葉を使うだけじゃなく緻密に計算されています。
1段目は特にあの演出でやる必要もないように見えるところなんですが、グラスよりカードが大事なのですよね。これはリピートパートで特に効いてくるもので、準備が整ってからの詰め方にこだわるバノンらしさが発揮されてる手順です。

Vacuum Packed

小瓶に借りたコインが貫通してイン、からのピンセットでビジュアルに取り出し。
便利な道具を使うとよりバノンらしさが出ますね。
いかに不可能な貫通をしてるかというのをさらーっと示す小道具使いが粋すぎます。
同様の手法で「これ、絶対に入りませんよね?コインの直径がビン口より大きいですもんね?ね?ね?」ってなんぼでも説明的にやることができるわけですよ。
それを視覚的にスマートに見せちゃうあたりがマジ最高で、ピンセットで取り出すとこが何倍も不思議に見えるようになってます。

Do the ‘Twixt

ミステリーカードのアプローチ。
プロブレムの完璧な解答というわけではないと思いますが、観客が持ってるカードをあれする技法はめちゃくちゃティセプティブで、それをもっとも効果的に使ってマジックに仕上げています。
BSOもめっちゃ良いアクセントになっていて、その後の静かな作業を誤魔化す陽動作戦的な機能が。

Timely Departure

3人の観客に好きな時間を思い浮かべてもらって、12枚のカードを見せて自分が思ってる数字の枚数目を覚えてもらいます。
またカードを見せていくと3人とものカードが消えていてデックの中から表向きで出てきます。
実際にはもう少しクロックトリック的動きがありますが、本の締めくくりに相応しい強烈なトリックです。

んなわけで、軽くではありますが全作品に触れました。
なんかすごいとか賢いとか似たようなことしか言ってない気がします。全部凄いのでしゃあないです。
この本は今でも改案が繰り返されてるテーマが多いのでバノンの資質がわかりやすいかもしれません。
特徴としては無駄と思える部分の削り方というか、足して無駄じゃなくしちゃう感じですかね。
ノイズキャンセリングヘッドホンてあるじゃないですか。あれってノイズとなる音と逆の位相を当てて飛行機のゴーーーとかも消してくれるんですけど、考え方的にはそういう感じ。
それってただ患部の技法を変えるだけじゃできなくて、手順全体を見て本質を理解した上で根っこのおもろさを変えずに何ができるかみたいなところだったりして、この本に載ってる手順とか新たな面白みが立ち上がったりしてるものもあってマジで凄いです。
たまたまじゃこうならないよなって思える手順ばかりでそこもまた凄いところ。

ところで、ついに皆さん待望のHigh Caliber日本語版が現実となってしまいましたね。

ジョン・バノン カードトリック HIGH CALIBER – 株式会社 東京堂出版

10月26日発売。
量も質もすごいので高いとか言ってる場合じゃなくて、熱い鉄板の上で圧倒的感謝の意を示し、タダ同然!実質無料!とか言いながらカートへインですよこれは。

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