93年に発売されたアーネスト・エアリックのカードマジック作品集。書いてるのはスティーブミンチさん。
エアリックはDAN & DAVEも影響を公言していたりと現代のビジュアル手品に多大な影響を与えている人です。
収録されてる手順は他で見たことないようなルックで、使われてる技法もイルでドープでクソやばく、どれか一つだけでもできれば人気者になれます。
Claptrap
カードを3枚選んでもらってバラバラにデックに戻し、手を叩くことで1枚ずつ別の方法でプロダクションされます。
1枚目はピョコーンと飛び上がり、2枚目はデックの中から表向きで現れて、3枚目は空の手から出現。
複数枚のカードを選ばせて別々の方法でプロダクションするのはそれだけで見栄えがするものですが、手を叩くという動作は共通しているコンセプチュアルな感じがとても良いです。
使用されてるテーブルワークでのマルチプルシフトも強くて勉強なります。
唯一引っかかるのはプロダクションのセッティング部分ですが、現象が7千万点ぐらいで気になる部分はマイナス20点ぐらいのものなので特にどうということはないです。
Proteus
選ばれたカードを真ん中に戻し、別のカードを真ん中から抜いてきてそれが選ばれたカードに変わります。
これだけ読むとたぶんいくつかの方法が浮かぶと思いますが、一体なんでこんなことしてるんっていうぐらいややこしいことをします。
なんでかっていうとそれは不思議に見せるためであり、コントロールは説得力高いしカラーチェンジも有名なものを使ってるだけにマニアでもあれってなるように仕込まれていてなかなかにやらしいです。
変化前のカードを真ん中からとってくるのがミソで、普通にやろうとしたらトップコントロールして2枚持ってパーンじゃないですか。
Jack Syna(ps)ces
4枚のエースをテーブルに置き、4枚のジャックを表向きのデックに裏向きにしてバラバラに戻し、4枚のエースをデックに乗せると4枚のジャックに変わり、エースは裏向きにバラバラに出てきます。
荒木一郎さんの「稲妻のかがやき」としてお馴染みのあれです。
特に荒木さんのオリジナリティが出てる作品でもないし稲妻とはかがやきとはみたいなことも思いますが、いくら変な日本語タイトルがついてても傑作は傑作です。
まず、4枚4枚のトランスポジションで場所ごと変わるってコンセプトがマニアックで超素敵ですね。
元ネタはビルグッドウィンらしいですが、ここで解説されてるハンドリングは非常に賢く、細かいところまでサトルティが効いています。
Lonely at the Top
エース4枚をバラバラに戻して、サッカートリック風に出現させるプロダクション。
コントロールはややめんどいのですけども、エースが出てくるところの意外性はとても良く、見た目も綺麗です。
House Guest
カードインボックス。
手のひらとデックケースが重ならないのが特徴で、使われてる技法はコントロールにも応用可能。
ただ、デックを横向きにする理由がそんなにないので、置く動作と結びつけたこの使い方がベストな気はします。
The Longitudinal Swivel Steal
センタースチール。
スチールからトップにもボトムにもコントロール可能です。
ちょっと前の資料ってこの手の保持するやつよく出てくるけど角度が難しすぎますね。
指は開いておけるのでそこらへんの感覚掴めば強いはずなのですけども。
Thought Manifest
観客が覚えたカードが手からいきなり出てきます。
スチールからパームトランスファーまで鬼。
プロダクションのとこはパームトス的なやつでも代用できますが、手の形はこっちのが綺麗すね。
Bureau d’Échange
選ばれたカードをポケットに戻し、デックのボトムに4枚のKを重ねます。
再びデックを表返すとボトムからKが消えて選ばれたカードに変わっていて、Kがポケットから出てきます。
4枚あれすんのがむっちゃむずい上にあれしたまま見せずにデック返すのがむず過ぎです。
Kato-nine-tails
カードを真ん中に戻して、裏向きにテーブルに置き、手でデックを叩くとトップに表向きに現れます。
うまくいけばかなりの魔法ですが、最初から最後まで難所で全部うまくいかせるのなかなかのあれです。
独特のパームトランスファーが一番活きる作品かもしれません。
Yours, Mine, Yours
カードを真ん中に戻して、コインがそのカードに変わって、コインはデックの中から出てくるトランスポジション。
コイン持ってからの両手のあらため方が賢くて、コイン持ってることによって自然な手の形になるのが良いです。
コインはノーエキストラですがロード法も自然。
ここまでくるとカードを戻した場所の前後のカード覚えてもらってそこにコイン突っ込みたくなります。
Alone in a Crowd
ちょっとしたトライアンフのようなトリック。
選ばれたカードをデックに戻し、3つのパケットに分けて選ばれたカードがあるパケットを裏向きにして、表裏表になるようにデックをまとめます。
そこから指をならすと全部表になって選んだカードだけ裏向き。
面白い動きで、物理的に無理っぽいけど意外となんとかなるやつ。
なんかこういうパズルありましたよね。
カードを特定する方法も面白く、トリックによって色々使い分けてる感が楽しく合理性もあっておもろいです。
A Flippant Triumph
トライアンフです。
デックフリップするとカードが1枚飛び出し、カードが揃う部分を段階的に見せれます。
形的には今でもよくあるあれですが、あれした時にあの状態をビジュアルに解決していて素敵。
当ててから揃ったの見せれるし現象の混乱も避けれます。
Bottomland Aces
観客にシャッフルさせ、スリップカットも使わないカッティングエーセス的なやつ。
シャッフルさせる前に当然パームするわけですが、テーブル上で行う少し特殊なパームは面白いです。
ギャンブリングデモンストレーション的に話が進むので、タイミングさえ合わせれば十分通用しそうなもの。
Cross Purposes
選ばれたカードを真ん中に戻し、表向きにテーブル上でリフルシャッフルします。
シャッフルの途中でカードを広げ混ざってることを確認し、テーブルでカードを揃えると選ばれたカードがリバース状態でプロダクションされます。
面白いあらためからの面白いプロダクション。
高いテーブルだと角度も余裕っぽいし、この本のなかでは比較的簡単な方です。
Lustig for Life
観客にカードを選んでもらって中に戻し、好きな数字を聞きます。
その数字のカード(7だったらスペードの7とか)がカットするとプロダクションされて、そこから7枚目に観客のカードがあります。
範囲を限定したカードアットエニーナンバーで、プロダクションとは相性あんまよくないかなという気がしないでもないですが、プロダクションするためにカードを操作するという動機になっていてそこからカードを触らなくてもいいのはなかなか強いです。
セットは最小限でどの数字を言われてもミニマムに動ける構成は素敵でした。
Poker Blind
トップに4枚のキング置いて、プレイ人数聞いてから2回シャッフルしてキングを特定の人に配るやつ。
手法はわりとダイレクトで練習あるのみという感じですが、細かいところに工夫も見られます。
ポーカーデモ興味なくても割と便利で、ファローじゃなくてこれで積めたらなあってのがわりとあるので長いこと練習しましたがどうにもならんですね。
Tandem in One
4枚のエースと4枚のキングをコントロールするポーカーデモンストレーション。
キングはデックにバラバラに戻し、エースはトップに残してからシャッフルでコントロールします。
手法的にはここまで使われてる技法の復習みたいな感じで、コントロールする枚数が増えてもそこまで難易度は上がらないのがありがたいです。
テーブルシャッフルのコントロールってあまり知られてないものも多いしコントロール感ないものだとマニアにも通用するから色々覚えておきたいもんですね。
The Case of the Inconstant Player
5人でポーカーやる予定で積んだ状態からプレイヤーが抜けたり入ってきたりした時にどう対処するかという話。
これもまあ出来たら便利でしょう。
便利でしょうけども。
A Little Bit Patter
上の手法の応用版。
リアリティのあるポーカーデモンストレーションという感じです。
後半はギャンブリングデモメインですが、テーブルワークは非常に参考になります。
ほかのテクニックと違ってシャッフルする動きでできるものですし、テーブルパームあたりは使いこなすとかなり強そう。
全体的に、当時からしてももっと穏当な解決法がある手品が多く、特にコントロールとパームはヤバイです。
シークレットアディションやコンビンシングコントロールあたりにも独自にこだわりがあり、難しくなってる割にどこまで効果があるかは不明ですが、人が当たり前にやってることの細部にこだわる姿勢は面白いですね。
ワンハンドボトムパームを使う手順がいくつかあり、今だとベンジャミンアールがパストミッドナイトで解説してるのを見た人が多いかもしれませんが、エアリックはかなりダイレクトに使うため難易度は高め。
複数枚だとあのトランスファーが効果的なので相性良いです。
技法は全体的に変わっていますが、自然に行いさえすれば自然に見えるようなものも多いです。
現象だけ達成したければもっと楽で「実践的」な手法もあるでしょうが、そういうものだけを効率的に学ぶことだけが手品の面白みでもないということがよくわかります。
こじらせて変な技法収集家になって人に見せる手品がなくなってからが本番。
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