by jun | 2019/11/22

2011年に出たジャスティンハイアムのノート。
今はVanishing Incで取り扱いがあります。

The KOSBE System: The Mechanics of Improvisation in Card Magic


これは即興のカードマジックに関する本です。
即興と言ってもノーセットで出来る手品というだけじゃなく、商品説明文にはこんなことが書いています。

「観客がカードを戻し、観客がシャッフルし、すぐに演者のポケットからカードが出てくる」
「観客が思ったカードがひっくり返ってる」
「借りたシャッフルデックで4枚のエースを出す」

どうです、凄いでしょう。

この本を読んでもそういうことが出来るようになるわけではないという事実をお伝えしなければならないのは心苦しいのですが、それはいわゆる「現象」「手順」という形でないだけで、「出来る」の定義も少し違って、こうやってこうすればこうなるという話ではなく、出来るには出来ると言いましょうか、こういう時にこうやると効果的だよ絶対お客さんびっくりするでしょという感じの話です。
現象やシチュエーションが自由なThe Trick That Cannot Be Explainedというか、知識もスキルも対応力も高いレベルで要求されるのがこのKosbe Systemです。

この本ではまず即興マジックを定義し、それが観客にどういう印象を与えるかというところから話が始まります。
難しい言葉とわかったようなわからんような例え話を交えて語られるので総合的によくわからん感じではあるのですが、ぼんやりした例え話は好きなのでここでもちょっとそういう話をしたいと思います。

例えば音楽ライブで、歌詞の中に場所の固有名詞が出てくる歌があって、ライブではその固有名詞の部分を会場の名前に変えて歌うと Fuuuuuu!!!! ってなります。
観客が聞き慣れた歌詞を変えて歌うとアドリブ感が出ますが、別にこれはその場のアドリブとは限らず事前に準備できるものです。
これがセットなしでできる即興風のカードマジックとしましょう。
じゃあジャスティンハイアムがいうところの即興マジックを音楽で例えると何かというとそれは別に良い例がないので最初から音楽で例えなければよかったですね。
あー、フリースタイルラップバトルとかは近いかもしれません。
言葉の即興性のみならず、ビートに合わせて韻も踏んでかっこよく聞かせないといけないという本質的には音楽技術で競うってあたりは即興マジックと似てると思います。

手品と同じ演芸くくりだと、紙切りとかがわかりやすいでしょうか。
お客さんからお題をもらってその形に紙を切るわけですが、林家正楽さんとか名人クラスの人は本当に凄くて、単に言われたものをそのまま切るだけでも凄いのに、必ず気が利いたアイデアを乗せてくるし、時事ネタや共演者の情報は確実に抑え、意地悪なお客のお題にもとんちと技術で納得させます。
知識と経験と状況判断力が必要という意味でも即興マジックと似てますし、たぶん訓練の方法論も近いのではないでしょうか。

色んなエンターテイメントを見てても即興芸がアガるということは感覚的にわかることですが、ジャスティンハイアムはマジックに特化して何故即興がいいのか、即興風の準備された手品との違いはなんなのかという話をしています。
この種のマジックを敬遠してる人に向けての視点が強く、ひたすら魅力を力説してるので万人向けといえば万人向け。
本人の経験談とか説得力に乏しい部分もありますけども、手順を覚えていつでもどこでもその通りにやるという段階からちょっとステップアップしたいというのに参考になる話も多いです。
クラシックプロットを即興マジックに仕立てる演出例など、普通に試したり自分なりに考えてみたくなるような物もあります。

解説書ではないとしながらもまあまあ具体的な作例もあり、いくつかの例を見てると即興マジックが出来るシチュエーションの作り方というかそこらへんのセンサーが敏感になったり、言い張り勝負のアティテュードもなんとなく掴めそうです。
ただ、ある程度のリスクを背負ってやるほどのことかという部分も多く、構造の話はされてるので膨らませることはできるんですけど、もうちょっとこう最大公約数的な話はなかったのかなと。
ジャスティンハイアムから影響を受けてるベンジャミンアールのLess Is Moreなんかは変な本ですけど、そういうギリギリの攻め方としてはかなり良いとこ突いてるなと改めて思ったりしました。

そもそもどんなマジックでも「セットしてきました!」とは言いませんし、即興でなくても即興に見せる工夫はされてるわけで、観客がシャッフルするのもエースがバラバラの位置にあるのもそう見えればなんでも良くて、実際そう見えてるからマジックが成立しています。
ところがもっとガチに、もっと奇跡をと求めていくのが手品の面白いところでもあり、こじらせて突き詰めた結果ガチの奇跡頼りでした!みたいな作品に出会っても勉強にはなったと自分を慰めるまでが手品仕草です。
このKosbe Systemというのはガチの奇跡待ちとかそれだけの話ではないですし、手順追ってるだけじゃ考えない話なので読んだ価値は十分ありました。
最近はゴリゴリにセットした手順の方がハマってるんですけど、それをパッと見普通のデックや即興っぽく見せるより、観客に持ってもらいたい印象から逆算する考え方がなんとなく掴めたような気がします。
それだけではこの本で目指す即興マジックとは言えないものですが、難しい言葉で誤魔化された感じのあるところも含めて良い意味で中途半端につまみ食いできる考え方なのは良かったです。

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