2011年に英語で出たウッディアラゴンのカードマジック本。
巧妙に原理を使ってパワフルな現象を起こすことに定評のあるアラゴンさんの代表作が多数収録されてる名著です。
なんか続編的なのが出るらしいので飛ばしてたとこも含めて読み直してました。
手順はEMCのWoody Landと被ってるのもいくつかあって、アラゴンの演技はユーモラスなとこで諸々カバーされてるとこも多いので、どちらかというとDVDの方が日本語字幕もついてるしおススメではありますが、そっちに入ってないのでめっちゃ良いのもあるし原理系は本で読んで手順なぞってワーオってなるのも楽しいので頑張ってワーオしましょう。
Sleights and moves
代名詞である”Separagon”を中心にオリジナル技法とそれを使ったトリックが解説されています。
Separagonはトライアンフやフルデックのオイルアンドウォーターなどに使えるシャッフルされたデックを2つのグループに分けてしまう技法で、そこ自体を現象にしなくても即興的なメモライズドデックや原理系のカード当てをするセットなど応用範囲が広いです。
やや独特の動きではあるので行為の正当化についても語られています。
トリックとしては”Cheeky Oil And Water”の考え方がおもろいですね。通常のパケットからフルデックという流れではなく、ややマニア向けですがSeparagonさえうまくいけばギャグ演出が跳ねると思います。
“The Wiper Move”はテーブル上でのフォールスシャッフル。
使えるシチュエーションは限定されますが、一部のスタックやトリックでは動機もしっかりしていて説得力の高い混ぜ方です。
その他、エースアセンブリなど複数のパケットを集める時に使えるコントロールの”Convex Control”や、ガビパレラスのデックスイッチ、デュプリケートを使わない破ったコーナーの一致など、汎用性の高いテクニックが紹介されています。
観客がカットしながら行うアンチファローも、ただ配るんじゃなく混ぜてる感じで戻せるのは色んな手順で使いやすいので良いアイデアだと思いました。
Tricks with any deck
レギュラーデックで行うトリック解説。
ファローシャッフルを含むセミオート的な内容で、どのルーティンもそれだけやれば十分なほどしっかりしていて、現象とダーティーな部分がうまく噛み合ってる構成が面白いです。
“Coincidences with Incidences”はメイトカードのルーティン。
やや難易度高い部分はありますが恐ろしい一致現象でエンディングは次々メイトが揃う派手やかさ。
一致の後に全部揃ってるとこを見せるのは現象がぼやけそうなところ、巧妙に観客にシャッフルさせる部分があるので偶然性と言う意味では一貫していて素晴らしいですね。
思ったカードをスペリングで当てる”The Cheerleader”も観客のシャッフルの自由度が高く見え、思ったカードとの親和性も高いです。
ちょっと日本語だと微妙な感じではありますが、原理的には参考になる部分が多く、カードアットエニーナンバーや枚数目を当てるような手順に応用できます。
“Never Tell Them What’s Going To Happen”はとても低負担で出来るエニエニで、メモライズドも不要。
それでいてカードが決まってから演者がデックに触れずに数えてもらえるもので、演技力は必要になってきますがかなり巧妙な構成になっています。
代表作の”Maverick”はピットハートリングのフィンガーフリッカー的な枚数を取り分けるネタで、3フェイズに分かれています。
枚数を取り分けるところは同じでもそれぞれ見え方がする素敵な構成で裏の繋がり方もまあ見事です。
観客が取ったパケットの中身を言い当てる”Si Fry”も代表作。
やらしさがとても良い感じに出てて好きです。
穴の埋め方が上手いというか、不可能性重視で成立はアウトぐらいのとこまで攻めて演技でカバーしてそこも面白みにするセンス。
“The Human Scale”の方は取り分けるのではなく重さで何枚か当てる演出。
これも3フェイズに分かれていて、最後のとこはかなり不思議。
本当、混ぜさせるタイミングとか原理のずらし方とかうまい。
アラゴン流のShuffle Boredである”Bored of Shuffling”は、裏向きのまま観客にシャッフルさせるとこがあるのが面白いところ。
セットはやや面倒ですがこれがあるのとないのではかなり印象が違うはずです。
演出も面白いんですが、ちょっとどうかと思う部分は多いです。
表向きの枚数を予言するこもを先に見せる割に表裏の枚数が変わるところに説得力が不足してる気がしますし、オチの示し方はかなり微妙だと思います。
“Gilbreath Detective”はタイトル通りの原理を使うカード当てですが、原理を知ってても不思議に見える感じ。
ラストはちょっとアレなナニなんですけども、カード2枚覚えてもらうので工夫次第でフェアに見せることも可能かと。
ここからポーカーネタが続きますが、アードネス本を演出に使う”Erdnase”が現象的にも良かったです。
他のも原理の参考にはなりましたし、予言と組み合わせた”Psychic Poker”なんかはちょっとやってみたい感じあります。
やっぱでも一番最高なのは”Blessed Poker”ですね。
観客がシャッフルして配ったり変えたり観客の自由度が非常に高く、フェイズごとに不可能性がどんどん上がるのにマジシャンが勝ち続けます。
Tricks with special cards
ギャフカードを使う章。
一般的なギャフを使う手順はクリーンさを求めて使われていて、自作しないといけないものは現象自体が面白くなってる感じです。
最初の”Do Not Get Confused…”はわりと普通目なパケットトリック。
裏返ったり白くなったりするやつです。
透明のカードにトランプのマークが移動する”The Transparent Travelling Spots”はアイデアも最高だし、一発芸に終わらない手順の構成も素敵。
メンタル的な気持ち悪さとビジュアルの気持ち悪さが良い感じに味わえます。
カニバルカードの改案”Examinable Cannibals”も普通っちゃ普通ですが全体の流れの作り方はやっぱさすがという感じで読みどころです。
松田道弘先生が好みそうなギャフ使い。
“Winner’s Intuition”は10枚のカードを観客に選んでもらい、5枚ずつ別の箱に入れてどっちがポーカーで勝つか当てるという手順。
これはかなり面白くて、応用例もなんぼでもありそうで超参考になりました。
YESとNOのカードを使う”The Psychic Deck”もおもろいアイデアです。
トリックパートは全編原理を面白に昇華するセンスが光ってますね。
知ってる原理だし読めばなるほどですがなかなか思いつかんようなものばかり。
Sleight of math…
原理についての章。
他の手順でも効果的に使われてるファローシャッフルとギルプレスの話です。
ここだけ読むと数式とか出てくるしなんのこっちゃって感じですが、ここら辺の知識を活かしたアイデアはここまでで示されているのでアラゴンの解釈もなんとなく有り難い感じで読めます。
というかやっぱこうやればこうなるって話だけじゃなくなんでそうなるかってとこ知ってた方が応用効かせやすいのでしょうね。
The Permanent Deck Principle
ここもファローシャッフル絡みの話。
ファローシャッフルの原理の中で比較的マイナーなものとそれを使うアイデアが解説されてます。
マイナーなのは使い道が限られているからということでしょうが、めちゃくちゃ面白い原理ではあり、それをなんとか活かしたいって感じでESPカードや自作のカードを使って演出とマッチするようなアイデアが並んでます。
スロットマシーンの絵が書いたカードやポストカードを使った予言あたりがおもろかったです。
Articles and essays
リカルドロドリゲスによるインタビューとエッセイ4つ、あとデックスイッチ箱が解説されてます。
インタビューではマジシャンを騙し誰が見ても楽しい手品の話や数理トリックについて、影響元から今に至るまでの話なんかをしてます。
エッセイの内容にも繋がる部分が多いのでインタビュー読んでもっかい手順を眺めてという流れで読むと納得度高いです。
数理トリックについては”Regarding Mathemagic”で語られていて、その優位性と弱点、実例を交えて動作を正当化する方法や観客により強いインパクトを与える方法などに触れられています。
この本で解説されてるトリックには「これをこうして」というような意味が動作はなく、演出のカバーと観客の自由な選択が挟み込まれるタイミングの良さで数理っぽさを感じさせないものばかりで、そういう手品を作るための肝が書かれています。演じるにあたっても重要なことなんで、基礎的なことも含めて必読って感じです。
“Construction and Composition: The Structure of Magic”ではもう少し広い創作論と演技論を語っていて、基本的にプロのショー向けの内容ではありますがUnity/Varietyの話なんかは面白く読みました。一貫性も欲しいし似たような内容で退屈もさせたくない、そういう理想的な構成の話で、理屈だけでは難しいとこありますけど何も考えずにいるよりは意識して感触を掴んでいきたいもんです。
使われてる原理についてはエルムズレイまじやべえということを再認識しました。
雑学みたいな原理が一級のエンターテイメントになる例が最近でもどんどん出てくるし、今読むべきはエルムズレイだと思うんですが、あれなんで誰もBook in Japaneseしてくんないんでしょうか。
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