by jun | 2018/11/26

ガスタフェローが2015年に出したノートで、翌年に日本一信頼できる手品本翻訳者である富山達也さんによる日本語訳版が出ています。
Hands offとは演者が手を触れずに観客の手の中で現象が起きるというコンセプトで、どの作品集でもガスタフェローがやってることですがこの本では全部それです。
厳密に手を触れないかというとそうではないのですけども、肝の部分では観客の意思が反映されてるように見える感じで、このあたりのバランスはさすがという気がします。
完全に手を触れないことにこだわりすぎると「どうやってもそうなる」という印象は強くなりますし、観客への指示が具体的すぎて観客が自由に何かをしたようには見えなくなったりしてしまいがちです。
ガスタフェローはクラシックの改案でも無駄を削ぎ落としたパーフェクトなものにこだわらず、多少遠回りしてもその過程も楽しめるようにすればええやんという人だと思います。
当然セルフワーキングにおける手続きの部分でもそのセンスは活かされますし、軽快な演出もいつも通り。

使う小道具に”触れな”くても、楽しい体験を作り上げるのは、まさに観客の心の琴線に”触れる”ことですからね。

とのことです。

All Three Kings

引かれたカードのフォーオブアカインドをスペリングで出現させます。
スペリングですがセットはとても簡単で、手順の中で積み込まれるタイプ。
カードの選ばせ方も操作との整合性があって良いですし、なによりスペリングの演出にグーグル検索を使うというセンスが素敵すぎます。
1文字1文字確実に綴っていくというのと何かが見つかるというのにこれ以上ない設定です。
あくまで設定であって決してガチには見えず、しかし確実に現象は起こります。
単なる偶然の一致に見せない、カードをめくる時のセリフなんかも超クールでかっちょええですね。

Hands Off Aces

デックを2つに分けて2人の観客にシャッフルしてもらいながら4つのパケットを作りトップカードにAが来るやつ。

en routeの方でこれのバージョンアップ版がありましたが、こっちはこっちで良いです。
こっちのは演者がカードをめくらないといけない方式のSCTAなのですけども、最後までハンズオフでない方がどうやってもそうなる感は薄まりますし、現象を示すのは演者の仕事なので最後めくるぐらいはそんなに気になりません。

観客の操作部分はガスタフェローのちょっとした改案によって手数を減らせてて素敵です。
おまけで書かれてる完全にハンズオフの方法も魅力的ですが、この手順で一個操作が増えてしまうのは結構マイナスな気もします。

Twenty

ブラックジャックでもポーカーでも最強の手札を作り、それが予言されています。

演者と観客でシャッフルするところからスタートしますが、ここが非常に説得力あるもので、某原理に持っていく過程も見事です。
この本観客にシャッフルさせるパートは基本的に同じなんですけど、手順ごとにちょっとした工夫があってその中でもこれは光ってます。
予言の要素が入るので特に強くシャッフルさせた印象を持たせたいところを見事に解決してると思います。
ギャンブル絡むのでやや観客を選びますがマニア相手でも結構いけるんじゃないでしょうか。

Heads Will Roll

想像上で振ったダイスの目に従って4枚の中から1枚ひっくり返し、それが予言されています。

ひっくり返してもらうまでにやや作業感はありますが、ダイスの目はフリーチョイスで演者はそれを知らずに進められるので自由な印象は強いです。
強い原理にちょっとした悪さを足して不可能なものに仕上げられてます。

1/4なのでお金かけて確実に当たるという演出も良いですね。
操作を上手く説明しないとスりますが。

High Card

2人の観客にハイカードで戦うゲームをしてもらいます。
途中でゲームの公正さを保つためにカードを捨てさせるのですが、最後にそのカードを見ると全部エースでしたという手品。

セルフワーキングでお馴染みのあれの楽しい使い方です。
ゲーム形式にすることでその作業をそういうルールのものと思わせるというのは効果的ですが、そういう演出をする上で大事なことが書かれてます。
ゲームは盛り上がらないとゲーム足り得ないという話ですね。
良い演出があってもそれに合った空気を出せないと演出すらも作業に見えてしまうので楽しくいきたいもんです。

Time Will Tell

シャッフルして3枚のカードを裏向きに置いて、その中の1枚の上に腕時計を置いてもらい、そのカードを当て、そのあと3枚のカードを表向きにすると現在の時刻を示しています。

フォーオブアカインドが出るとかだと予定調和感が拭えないところがありますが、時間という動き続けるものを示すことでそこを回避していますし、時計をカード当ての演出にも活かしていてオチのインパクトを強力に見せるための工夫にも抜かりありません。

性質上多少のリスクはあるんですけど、そこらへんも多少はコントロールできるように作られてるのが嬉しいですね。

Maverick

チャドロングの”Shuffling Lesson”のブラックジャック版、そっからロイヤルフラッシュも出ます。
使うデックは1組で全部観客に渡してしまえるのが特徴。
レッスンの手順もガスタフェロー風味が入っていて、富山さんの日本語訳もキレッキレでとても良いです。

原理自体は同じでも小さな偶然からあり得ない奇跡に飛ぶ見せ方も面白く、ブラックジャックにピンと来ない人でもロイヤルフラッシュならわかるでしょうし演じやすい手順かと思います。

Counterpoint

4枚のカードの中から1枚覚えてもらい、観客が心の中で決めた数字に従って混ぜますが当てれます。
この本の中では1番メンタル寄りの手順で超不思議。オリジナル原理もめちゃおもろいです。
スペリング要素がありますが、一つの単語ですしちょっとしたアクセントとして使えるもんだと思います。
どっちかというとマニアに見せたい系の手品ではありますが。

Your Turn To Triumph

ハンズオフなトライアンフ。
ガスタフェローさん似たテーマがいくつかあってどれがなんだったか混乱しますが、これはハーフパスのスキルが要らないやつ。

ハーフパスが必要なやつとどっちが良いかは悩むあたりですけども、観客が表裏を混ぜたように見せるものとして最後の操作には一貫性がありますし、うまく演出できれば「あれ反対言ってたらどうなったんだろう」というもやもやも残すことができます。
完全に角度制限がなくなるのも小さくないメリットですね。

Gemini Squared

ジェミニなあれの4枚版。
4枚の割に覚えやすく、山もオチもしっかりあってめっちゃ良いです。
本でもDVDでもあちこちで解説してるものなのでガスタフェローもお気に入りのようですね。

サカートリックなのですが、見た目だけで何かを期待させて一旦裏切るという流れが好きです。
カードがバラバラであることでランダムな操作であることも印象付けることができますし、エンディングのインパクトも高まります。
オチに持っていく前のくすぐり感も小道具の使い方も綺麗で、まあ素晴らしいです。

全体的にセルフワーキングや原理の弱点に自覚的で、ただ操作に理由を付けるだけにとどまらない演出もガスタフェローらしく、不思議を引きずるような狙いも見えて楽しい本です。
セルフワーキングこそ見せるのが難しいとはよく言われますが、ここまで手順が賢くて気の利いたセリフ例まで用意されているとウケなかった時にとても辛い思いをするのが欠点でしょうか。

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